実演生物学:Ch2. -6A,:パラフィン切片HE染色標本(ニジマス稚魚)の作製法
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1. 組織染色標本とは?
2. 本編の概要
3. 本編解説の組織染色標本作製法の日程工程(概要:6日間)
4. 本編解説の工程期間が長い理由(特に固定脱灰処理について)
5. 必読必須:安全実験に関する諸注意事項
6. 模式図とボタン番号の関係
組織標本/組織染色標本とは、得られた体の部分/体組織を透過型の光学顕微鏡による観察が適するよう伝統的な技法(組織標本作製技法)により標本化したものであり、個体生物学における不可欠な研究材料である。通常「固定、包埋、薄切、染色」の4工程で作製される。パラフィンで包埋しミクロトームで薄切後、ヘマトキシリンとエオシンで2重染色したHE染色標本が基本である。
染色とは、組織の成り立ちを観察しやすくすることが目的であり、左記のHE染色に代表される一般(普通)染色と以下に示すような特殊染色に区分される。
<染色法の種類と選択>
・一般染色:ヘマトキシリン・エオシン/HE染色
(情報量の多い優れた染色法)
・結合組織の染色
膠原線維:アザン染色、
弾性繊維:アルデヒド・フクシン染色
・脂肪染色:ズダン染色
・多糖類染色: PAS(Periodic Acid/Schiff)染色、
アルシアン青染色、AB-PAS染色
ヘマトキシリンとエオシン(エオジン)による2重染色法(HE染色と略す)は、多くの染色法の中では方法的に単純ではあるが、結果的には組織が過不足なく染め出されるため「情報量が多い染色法として最も重要な染色法」である。
しかし、細胞内外の特異的な物質のみを選択的に染め出す特殊染色法も重要であるり、HE染色との併用により、効果的な観察診断や判断が可能となる。アザン、ズダン、PAS(パス)、AB-PAS染色などは是非記憶しておくべき組織技法/用語である。
1)本編では、4 cm程度のニジマス稚魚などの小型魚を材料に、組織標本として最も一般的であり、且つ汎用性の高いパラフィン切片のヘマトキシリン・エオシンの2重染色標本の作製法について解説する。
2)パラフィン包埋組織切片染色標本の作製では、それぞれの工程において、いろいろな方法が考えられるが、本編では、ニジマス稚魚に対し確実に採用できる方法のみを以下に示す。
3)なお、ミクロトームによる薄切操作は、気温が高いと薄いパラフィンリボン(4〜6μm)の切り出しが難しくなるので、気温の低い季節が作業に向いている。もちろん、工夫次第で夏場でも行える。
4)本編の構成は「目次」に示す内容であるが、特に「安全実験」に心掛けるため「B.」に 必須必読として諸々の「注意事項」を記す。必ず参照すること。
5)同様の観点から、有機溶剤「キシレン」の代替溶液として、極めて安全な「代用キシレン」を用いた染色工程も記す。
パラフィン包埋切片HE染色標本の作製は、通常「固定、包埋、薄切、染色」の4工程である。本作製法では、下記のように、その作業工程から4ステージに区分することが出来る。ただし、それぞれのステージ内の操作は途中で作業を中断することはできない。全ての作業は約13ステップであり、その概略と使用する主な試薬機器を<D>に記す。
3. 本編解説の組織染色標本作製法の日程工程(概要:6日間) 1st Stage 【固定/脱灰】:4日間
前処理→前固定→整形→固定脱灰→(保存)
(すぐ脱水パラフィン浸透処理を行わないときには、
70%EtOHで保存)
2nd Stage 【脱水/パラフィン浸透】:2日間
脱水→中間剤→パラフィン浸透→包埋
→
整形/台木付け→ブロック完成
(包埋後、パラフィンブッロクとして保存)
3rd Stage 【ミクロトーム操作、薄切・伸展/選取/接着】:1日間
薄切→伸展→スライドグラスへ貼り付け/乾燥
(乾燥後、未染色プレパラートとして保存)
4th Stage 【染色/封入】:1日間
脱パラフィン→親水化→H/E染色→脱水
→透徹→封入→乾燥 (染色標本は永久標本)
(完成した染色標本は永久標本である。)
本編ではニジマス稚魚(3cm程度)を材料に標本作製法を解説する。稚魚であっても硬組織/骨はある。ニジマス稚魚の骨は他の魚種に比べ軟らかいが、脱灰処理なしにはミクロトームで4〜6μmの薄切とする事は不可能である。ブアン液による固定脱灰を3日間も行うのはこのためである。硬組織を含む場合。他の魚種では1cm以上のマクロ組織とすることは難しい。
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5. 必読必須:安全実験に関する諸注意事項
<実技実験に関する注意事項>
1)動物組織のパラフィン切片染色(H/E)標本作製では、有機溶媒(エタノールやキシレン)、パラフィン、ミクロトーム(刃)や染色液など、いずれも取り扱いに注意を要する試薬器具を用いる。不明の点等があったら調べる、または質問するなどして、正しい知識の基に実験を進めるようにする。また、廃液処理などにも充分配慮する。
2)組織切片作製法は幾分慣れやコツが必要である。よって、このテキストでは基本的なことしか書いていません。例えば、手順Uのパラフィン包埋ブロック作成や手順Vのミクロトームによる薄切などは、このテキストでは網羅していません。参考書等をご参照ください。またはご質問ください。我々が汎用する参考書は下記です。
3)組織標本作製法では多くの危険物や有害試薬を用いる。実験操作を行なう時だけでなく、機器や試薬の管理維持も重要である。術者の安全だけでなく周囲の人への配慮も必要である。余裕のある実験、正確な知識に基づく操作に心掛けてほしい。
4)種々のウェブテキストやウェブサイトも有用である。「組織標本作製法」など検索用語を用いて適切なサイトを検索する。「サクラフィアンテック株式会社」の試薬等の解説も有用なので利用する。
<安全対策1:ミクロトームのナイフの取り扱い>
1)ナイフの刃(替え刃)を取り付けた状態(むき出し)で機器ミクロトームを放置してはいけない。
2)ナイフの刃(替え刃)が付いている状態で、試料/ブロックに触れるや交換などを行ってはいけない(行う時はナイフの替え刃を必ず取り外すこと)。
3)ナイフフォルダは、刃の有無に関わらずテーブルに放置してはならない(必ずナイフボックスに入れる)。
4)替え刃の交換はミクロトームにフォルダが設置された状態で行う(常に定位置で行う)。 <安全対策2:試薬溶液について>
5) ブアン固定液:ピクリン酸粉末は危険物であり防爆ボックスに保存する(強烈な衝撃を与えてはいけない)。ホルマリンは身体に付かないよう注意する。
6) キシレン:シンナーと同様の効果があり換気に注意して取り扱う。キシレンには水がほとんどなじまないので、不注意で水を混ぜない事。安全な代用キシレン(ティッシュクリアーなど)の使用も可能(別様を参照)。
7) アルコール:エタノールは火気厳禁で取り扱う。アレルギーのある人は注意。
8) パラフィン:パラフィンは溶融ポットなどで、70℃程度で長時間の取り扱いとなる。安全な機器/場所/システムで取り扱う。
<目次と移動ボタンの対応>
<パラフィン切片HE染色標本の作製法>
A. 組織標本作製技法の概要と安全対策
B. 一覧表:組織標本作製工程
C. 主な試薬と備品、その調製法
D. 実技手順1(固定):前処理・固定/脱灰・整形(1st Stage)
E. 実技手順2(包埋):脱水・パラフィン浸透・包埋(2nd Stage)
F. 実技手順3(薄切):ミクロトーム操作、薄切・伸展/接着(3rd )
G. 実技手順4(染色):染色、脱水、封入(4th Stage)
H. 代用キシレン法
I. 主な関連解説と参考書一覧
・・・このシートは終わり・・・・
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