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受講者や担当者へ

実験学習「細胞培養実験」

** その解説:原理法則性 ** 

本編の目次へはココをクリック
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PCの時はブラウザの縮小機能で表示してください。

本編では「細胞培養実験の仕組み・原理など:細胞が生きる仕組」を解説します。細胞実験の意味意義培養細胞と生体組織細胞との類似性、などについて記述しています。下記は、少し小難しいので恐縮に思っていますが、きっと大切なので、無理を押して、ご参照をお願いします。

注意:本シートの下にある「小図」をクリックすると拡大スライド表示になる(別シートへ移動する)が、そのスライドからこのシートへ戻る時は、図の下欄にある「テキスト」の文字列をクリックしてください。なお、本編にはたくさんのリンク用の文字列があるので、安易に移動すると「迷子」になります。ブックマークなどを付し「迷子防止策」を図ってください。最初は「文字列クリック」によるシート移動は用いず通読/斜め読みを勧めます。

本編は、このシート「テキスト形式」で参照してください。挿入した図の上をクリックで拡大表示が可能ですが、このテキストへ戻る時は「テキスト形式」という文字列をクリックしてください。なお、本テキストから別のサイトへ移動後、改めてこのテキストへ戻る時は指定のURLを使用してください。

下記の挿入図は「図一覧」あるいは「連続スライド」での参照も可能です。

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学習内容構成原論へ、 2018CG細胞実験法


カバーガラス(CG)について:一般的な細胞培養実験にはそれ専用のシャーレやディッシュが用いられる。しかし、本編ではカバーガラス(CG)を「細胞培養のための基盤/基質」として用いている。その理由はカバーガラスも培養用シャーレなどと同様に細胞培養に適しているためである。実験学習に向けた便宜から「カバーガラス培養」を行い、その経緯から下記解説が成り立っている。違和感なく理解してほしい。

補足:細胞培養技術に拘りや自負心がある方には本編は不向きかもしれませんが、質問などがあればご連絡ください。ただし、技術は物性依存であることは共有できると思っています。
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<目 次>
本編で扱う 魚類細胞の顕微鏡観察像(形態・その変化:運動性) を事前に観察する場合は上の「下線付き文字列をクリック」で移動・参照。カバーガラス(CG)を用いた細胞培養実験を参照する場合は「ココ:スマフォで気軽に」をクリックしてください。但し、その前に「迷子防止のブックマーク」を付設しましょう!

  1. 講義の前に
     A. はじめに
      B. 実験学習の前提はじめの質問
       C. 資料画像:VR顕微鏡観察像
  2. 細胞が接着伸展する理由
     (足場依存性と細胞運動:原理1
  3. 絵文字が現れる理由
     (細胞シートの形成:原理2
  4. 考察1細胞シートはなぜ必要か
     (生体の組織細胞との類似性:微小環境)
  5. 考察2
    培養細胞を生かす方法・が生きる仕組み
    細胞培養の基本:細胞培養3要素+α,
    細胞培養技術を培養細胞と生体組織細胞との類似性から考える
  6. 補足:その他の話題(考察3)
    a.皮の話6つの皮と大根の皮)、 
     b.眼の話、 c.等張液の話
      d. 復習. 実験学習に関わる話題・質問
       実験学習・培養細胞・細胞培養
        の「理解度チェックリスト
  7. 関連ウェブサイト(資料)の紹介、 
  8. 課題「実験学習とは細胞標本の観察指針
    :その視点・観点・その表現

     (構造に基づく方策)
  9. おわりに、本編の「まとめ:概要一覧」 
  10. 参考文献、 
  11. 付録
    培地成分、細胞外マトリックス、血清成分
  12. 終わりのメッセージ:ありがとう。

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<1. はじめに>

みなさんは、既に実験学習として「カバーガラス培養染色細胞の作製とその顕微鏡観察」を行っていると思います。または、下図のような細胞標本の観察を行ったかもしれません。その結果、いろいろな疑問が生じたのではないでしょうか。ここではその実験考察として解説を加えます。つまり、細胞実験の仕組みや原理の説明です。その構成は「目次」の通りです(下線文字列のクリックでそれぞれの解説へ移動)。
 なお、まだ実験学習を受講していない場合は、はじめに「ココ」をクリックして、動物細胞の運動性やその形態を参照してください。

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(画像クリックで拡大表示: 左 Fig.0   中 Fig.00   右 Fig.000) 

上図の解説:カバーガラス培養の細胞染色標本とその顕微鏡観察像。標本(#1,#2,#3)はラミネート封入によりシオリのような薄いシート状になっています。#1の標本(上段)は通称「お絵描き実験」の標本(☆型が見えます)。#2(中段)は単純培養実験の標本です。#3(下段)は未染色細胞の標本。右図は標本3種を台紙に貼り付けた写真(右半分は魚類のマクロ組織のイメージ像)。
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#2:細胞シートの標本

左図の小さな四角枠の上をクリックでバーチャル顕微鏡観察に移動(ココをクリック


細胞培養中の経時的な形態変化の時は「運動性」を顕微鏡観察:この文字列をクリック


上図:CG単純培養(#2標本)の結果:カバーガラス培養法による染色細胞像(クリスタルバイオレット染色) 。 
 本編の方法で作製した約30分培養後の魚類培養細胞FHLS像。染色細胞には、細胞質内の液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、糸状仮足や葉状仮足など、細胞接着の様子や基本的な細胞形態が明瞭に観察される。仮足とは、染色性が低い細胞の偏縁部であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展した細胞膜と細胞骨格により構成され、その波うち運動により移動を可能とする部分。接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期など、では細胞は球状のまま濃染され観察される。
細胞の形態変化:「運動性」を顕微鏡観察


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<1-B. 実験学習の前提>

 この細胞実験の仕組み・原理の考え方の前提は「細胞はどうのようにして生きているか?」という観点です。もう少し具体的に言えば、動物細胞(生体細胞・培養細胞)の基本的な性質とは何?という視点になります。それには「なに・なぜ・どうして・どのようにして・それ本当?」という実験学習の基本姿勢が有効です(必要です)。培養細胞実験に基づき(視座)、細胞の基本的性質を考える(視点)という視座視点(ベクトル)で取り組みましょう。

 また、実験とは「ともかく何かを確かめること:何が知りたい・確かめたい?」ということでもあるので、みなさんが抱いたいろいろな疑問はそれでとても大切です。その疑問を起点に、その考え方に触れながら、少しでも疑問の解消につながることを期待し、以下にその要点を列記してみます。

 なお、最も重要なことは「実体には構造があり、構造とは要素の配置とその繋がり」という自明の視点ですが、自明な「構造」という意識はなかなか顕在化しないことも事実です。それで本編ではこの「構造」のことを大前提にしてほしいと思っています。特に「観察結果の分析」には不可欠であることは忘れないでください。
 では、本論。はじめに、実験方法の概要を下記「枠内」に記しました。単純培養実験(#1標本)とお絵描き実験(#2標本)について改めて復習してください。それに合わせて、細胞実験の仕組み(原理)の理解に努めましょう。 その時の疑問も大切にしてください。

 以下に解説する項目は「目次」の通りですが、いずれにしても、動物培養細胞のことなので、その視座視点は「培養細胞と生体組織細胞との類似性」という観点になります。 動物個体の成り立ちに関わることなので、たくさんの視点の導入が可能です。複雑になってしまいますが、しかし、細胞培養実験の経験者の場合は、都合よく、その視座視点は「一連の実験考察のプロセス」として基本が成り立ちます。心配はない・下記参照、ということです。
 なお、形態という言葉は「役割を示す形」という意味です。当たり前の話ですが、顕微鏡観察した時の実体(細胞像)の見方・考え方・進め方には「構造:要素の配置とその繋がり」という平素な視点・前提が用いられます。

 また、余談ですが、生物学とは、簡単に言えば、「物言わぬ地球進化・生物進化の成果物に代わってその成り立ちを通訳・翻訳・代弁すること」であり、実体と概念の連立連携は生物学の基本理念です。 基本的な性質や約束事で大変重要なことを「原理・原則」と呼ぶこともありますが、生物学習とは従って「対象物(実体)の基本的な性質の理解」ということでもあり、つまり、基本的なロジック「誰もが認める知っててお得な考え方」の学習です。

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 上記した「一連の実験考察のプロセス」、実験観察の視座視点(ベクトル)を平易な表現にすると下記の11項目などが該当します。

 雑多な表現ですが、また、学習の「その場・その時・その課題と状況」に応じて種々の視点の導入が可能で、一筋縄には進みませんが、実験学習の経緯や命題テーマを重視し、その実技プロセスの経験値を振り返りながら、各自の平素な疑問を大切にすると、誰もが同じようなことが気になる・気付くのではないでしょうか。従って、誰かが代表して「適切な疑問や命題を取り上げる」ことが重要です。答はひとつとは限らないし、出ないかもしれませんが、それでも考える筋道は振れ幅少なく進むはずです。

 また、実験学習・考察協議の順列は、ともかく「実験をしてみよう・してみた:経験値」に基づき、その後に、1)培養時間中の細胞の運動性に関わる観察・考察する(ライブ観察・細胞の運動性についてはココ」をクリック)、あるいは染色標本の様態を「構造」の視点から協議する、2)実験実技の方法と材料の意味意義について考える(その観点は生体組織との類似性です)、3)その上で、「細胞の基本性質」ということを「生体機構との類似性」から協議・考察する、といった順序も可能なはずです。その時々には、さらに、発展的な協議課題が生じるはずです。
  実験に関わる「答え合わせ」は急がないこと。実験原理の説明もほとんどなく実験したから達成感がないと落胆せず自分自身の素直な経験値を大切にしてみてください。
  なぜなら、上記の1)−3)のことは、これから数年以上も考え続けることが含まれいるから。この細胞培養実験 の経験値から上記3項目を考えるは、教科書の内容の基盤が含まれているためです。新たに学習する単元の時に、改めて「あの時こんな材料を使った理由は、あの時こんな結果になった理由は」などと、いつでもどこでも誰でも学習する内容の基盤が含まれているから、がその考察の順列の理由です。なお、我々メンターはそれに応じることも可能です。
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下記は改め実験を振り返る時の補足「平素な視点」です。

<はじめの質問:平易な視点>

    1. 生きている動物細胞をシャーレに入れたら(培養したら)どうなるか?→ 自律性を示す生物(動物細胞)と無生物(砂つぶやビー玉)ではどう違うか?
    2. 使った実験材料の役割・理由は?:意味意義はどう考える。→細胞培養とは生体組織細胞の生きている微小環境を容器に再現すること、生体との類似性から考えること。 材料は体のどこにある? 。
    3. 実験技術とは「用いる材料の物性や目的とする対象物の特性」に基づき開発されたもの。では、どのような物性を細胞や材料は示しているか確かめてみよう。その様子や状況にも注意を払おう・結果も確認しよう。つまり、細胞培養実験の経験値に基づき生物を考察する視座視点に立ってみよう。
    4. 実験A(単純CG培養実験):こんな簡単な実験で本当に動物細胞の基本的な性質が分かるのか、確かめてみよう→実験とはともかく何かを確かめること・貴方は何が知りたい確かめたい!
    5. 実験B「お絵描き実験について」→キャッチフレーズ:生きている動物細胞(魚類の培養細胞FHLS)と身近な生体由来の物質(ゼラチンやアルブミン)を材料に「細胞培養実験」を行ないます。最終的に、培養シャーレの中に微小な細胞で大きな「形」を形成します。なぜ細胞で簡単に「形」ができるのか、その理由を「細胞や材料の性質や特徴」から考えましょう。更に、生体の組織細胞との類似性から考察しましょう。結果的に「動物体の成り立ち」に対する基本的な視点を構築しましょう、を目的とします。疑問は大切に!
    6. 実験A・Bの結果(染色標本)の見方・考え方とは?→ 構造(要素の配置とその繋がり)からそのまま平易に表現するとどうなるか?:実験結果の評価・解析の観点・構造という観点の重要性。
    7. 要素と要素の繋がりは効果や機能として示される。→では、結果(顕微鏡観察標本)にはどのような要素や様態(配置と繋がり)が観察されるか?:その観点から結果標本が読み取れるか。
    8. 多細胞動物の細胞の基本的な性質は「足場依存性と細胞シートの形成」である。→ では、単細胞生物(バクテリアやアメーバーなど)はなぜ単細胞生物なのか?:足場依存性の有無に基づく観点。
    9. 動物細胞は細菌細胞に比べてかなり巨大であるにもかかわらず、その培養法や取り扱いは複雑である。では、バクテリアの取り扱いはなぜ簡単なのか?→ 足場依存性(接着依存性)の有無。
    10. これらの話題「疑問や質問や命題」については、下記の6dにその他として列記します:ココをクリック
    11. なお、実験B(お絵描き実験)の意味意義(生体との類似性の考察)はセット4で詳しく扱っています。また、材料などの意味意義も同様に参照してください:ココをクリック

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2. 細胞が接着伸展する理由
 :足場依存性と細胞運動

 下記の解説は「単純培養実験:#2標本」に対応した実験原理・仕組みですが、「お絵描き実験:#1標本」にも関わる事項も含まれます。はじめに下枠内の実験概要を確認してください。

単純培養実験(#2標本)の概要

 実験に用いた主な材料は、カバーガラス、細胞液(細胞を含む各種の栄養素からなる液体培地)、固定液(ホルマリンなどの混合液)、染色液(クリスタルバイオレット)です。
 この実験は、1)カバーガラスに細胞液を滴下し、2)そのまま室温で30分程度の培養の後、3)固定・染色、で完了します。その結果、細胞はガラス表面と接触すると、はじめの球状から、培養時間と温度に依存し、カバーガラスに素早く接着結合し、経時的に平たく広がった扁平な伸展細胞に変化します。つまり、細胞はカバーガラスの上で自律的な細胞運動を示しました。

 はじめの質問:下記は疑問を大切にするためなので正解を求めるものではありません。実体の様子をそのまま表現すると疑問や協議が明瞭になるはずです。
 #2標本を顕微鏡観察した時の様子を上記の用語などを用いて表現してみてください(協議してください)。なお、実体あるものには「構造」があります。構造とは「要素の配置とその繋がり」という視点から扱います。また、動物体に関わることは構造レベル(階層性)から考えますが、この場合は低倍率観察の様子(細胞レベル)と高倍率で観察した場合の様子(細胞小器官レベル)、の2段階の構造レベルから考えましょう。なお、細胞同士が集まった状態は「組織レベル」になります。このことも念頭に話し合ってください。 顕微鏡観察像をスケッチする時には、この「構造」に関わる2つの観点を忘れずに対応してください。

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画像クリックで拡大表示: 左 Fig.1   中 Fig.2   右 Fig.3) 

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では #2標本/単純培養実験の仕組み/原理です。

  1. 本実験の魚類細胞はカバーガラス表面に接着伸展し形態変化を示しましたが、ほとんどの動物細胞は足場依存性接着依存性)という性質を示します。これは、生体の組織細胞(上皮細胞など)が基底膜(コラーゲンなどが主成分)と呼ばれる物質(足場)に接着結合し配列して生きていることと同義です。その他の組織の細胞も基本的には足場依存性ですが、機能を発現した血球系の細胞(移動性の細胞)はこの性質が消失あるいは変化した細胞です。細菌などの単細胞はそもそも「足場依存性」がありません。つまり、多細胞動物の細胞は足場依存性(適切な物質に接着結合して生きている)という性質に拘束されています。本実験の魚類細胞もガラス表面に接着伸展した形態を示しました。

  2. 細胞接着の足場となる物質を接着基質あるいは細胞外マトリックス(ECM)、生体では基底膜と呼びますが、細胞はその接着基質を識別・選択し結合することができます。このことを細胞が「接着」したと表現します。カバーガラスは都合よく優れた接着基質としての性質を示すため使用しました。基質(マトリックス)とは「何かを生み出す・何かが起こる場所」というニュアンスで理解してください。

  3. 動物細胞は細胞膜とその表面にいろいろな構造を持っています。情報伝達物質(ホルモンなど)を受け止める受容体(レセプター)、物質輸送に関わるポンプチャンネルに加え、細胞の接着結合に関わるインテグリンという構造もありますが、これは膜表面に露出した構造です。

  4. 細胞が基質に接着する時はこの膜構造「インテグリン」が仲介します。つまり、カバーガラスは細胞接着に適した素材(構造)なので、細胞はガラス表面に接触するとこのインテグリンと反応し結合します。インテグリンは細胞膜の内側まで繋がっているので、膜直下の蛋白構造が変化し、続いて「アクチン重合」などが生じます。その結果、細胞質内の細胞骨格アクチン線維)が変化し、細胞は形態を変化させます。このような連続した反応をシグナル伝達と呼びますが、この場合は細胞運動として可視的に観察が可能です。

  5. つまり、最初の接着反応という刺激は「シグナル伝達」の開始シグナルであり、その情報に基づき細胞は自律的に変化しました。細胞運動を展開しました。

  6. 本実験では、当初の球状の細胞が基質に接着し扁平な広がりのある細胞(伸展細胞)へその形態を変化させた現象です。そのためにはもちろんエネルギー「ATP」を必要とします。

  7. 接着基質との結合部位には、いろいろな構造蛋白や太いアクチン線維が結合しているため、顕微鏡的には濃く染まった斑点として観察ができたはずです。つまり、接着斑です。生体組織の場合はデスモゾームという同義の用語が用いられます。

  8. なお、伸展運動とは、細胞膜が薄く伸長する現象であり、その伸展部はその形から葉状仮足あるいは糸状仮足と呼ばれます。仮足はアクチン線維(細胞骨格)が伸びる、あるいは広がることにより形成されます。仮足領域には、細胞骨格以外の細胞小器官はほとんど観察できません。

  9. 細胞が移動できる仕組みは、従って、接着部(斑)の形成・消失の繰り返しと仮足辺縁域のアクチン線維の変化による波打つような変化・運動に起因しています。

  10. なお、#2標本の左右は培養時間が異なります。5分と30分培養の細胞です。その結果、5分培養の細胞は未伸展の球状細胞が多いはずです。30分培養では広がりを見せた伸展細胞が多いはずです。細胞は温度と培養時間に依存してその形態を変化させます。

  11. 以上をまとめると、動物細胞は生きる為に接着基質を必要とし、接着結合ができた場合は、そのシグナル伝達により細胞骨格が変化させ、細胞そのものの形態が変化する、ということです。つまり、動物細胞は「足場依存性」に拘束され、自律的なシグナル伝達とその変化に従い細胞運動を示しながら生きているということです。動物細胞の基本的な性質です。

  12. 最後に一言。上記の下線付きの用語などのことが掲載されている成書(教科書や図説集など)を開いて、どのようなことか、今一度の確認を行ってください。疑問は大切に、です。

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 (画像クリックで拡大表示:左 Fig.4  中 Fig.5  右 Fig.6 )
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.7  中 Fig.8  右 Fig.9 )
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3. 絵文字が現れる理由
  :細胞シートの形成だよ!

 上記「2」では、動物細胞の基本的性質(その1)として、足場依存性と細胞運動の仕組みについて解説しました。ここでは標本「#1」を取り上げ「絵文字が現れる理由」について解説します。つまり、「お絵描き実験」に対応する実験原理・仕組みですが、やはり、動物細胞の基本的性質「その2」という観点から取り上げます。
 補足:実験名「お絵描き実験」は通称であり、本来は「動物培養細胞による組織形成・形態形成に関する基礎実験」という名称が適しているかもしれません。この実験では生体由来物質を材料としていますが、メチルセルロースは血清アルブミンの代替なので、このことには留意してください。
 では、はじめに、実験方法の概要を確認しましょう。

お絵描き実験(#1標本)の概要

 この実験は、1)カバーガラスをメチルセルロースで処理(濡らして乾燥)の後、2)そのカバーガラス表面に任意の絵文字をゼラチン液で描く(綿棒で描く)、という準備を行います。
 その後は単純培養、つまり、3)そのカバーガラスに高濃度の細胞液を滴下し、そのまま放置し90分程度の培養を行い、最後に、4)固定染色、で完了します。
 その結果、カバーガラスには青紫色の形(☆型:ゼラチンで描いた所定の形)が現れ、顕微鏡観察では、細胞がゼラチン塗抹域にのみ接着伸展した状況として確認されます。なお、この実験では高濃度の細胞液で培養を開始したので、細胞は隙間なく平面的な接着配列を示していたはずです。その細胞配列(状態)のことを「細胞シート」と呼びます。つまり、本実験では「単層の細胞シートの形成」が観察されました。

はじめの質問:下記は正解を求めるものではありません。疑問に基づく協議を進めるために必要な情報の収集のためです。実験とはともかく何かをたしかめること。
  1)この#1標本の実験に用いた材料は「カバーガラス、メチルセルロース、ゼラチン、細胞、染色液」ですが、実際に青く染色された材料は何でしょうか。 2)培養細胞による絵文字(形)の作成において、それぞれの材料はどのような役割を担っていたと思いますか。話し合ってみてください。なお、「技術」とは対象物(材料)の物性理解に基づき展開されるという側面を持ちます。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.10  中 Fig.11  右 Fig.12
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    1. 本実験は「生体の組織細胞の様態を再現する」を目的にしています。それではじめに実験材料について基本的な解説を行います。下記の材料解説に基づきその上で実験の仕組みを考えてみましょう。

    2. カバーガラスはとても良い細胞の接着基質ですが生体由来ではありません。この実験では細胞培養のための「固相・基盤」として使用しています。

    3. メチルセルロース(MC)も生体物質ではありません。本来は生体由来物質で血液成分の血清アルブミン(Alb)を使用するのですが、その試薬(BSA)は少し高価、また腐敗しやすいので、この実験ではその代替としてMCを用いています。

    4. ゼラチン(Gel)は日用品の食用ゼラチンを用いましたが、これは天然物(生体由来物質)です。つまり、ゼラチンはコラーゲンの変性物。コラーゲンは真皮の成分(線維性結合組織の主成分)ですが、体のどこにでもある構造性蛋白質です。
       構造性とは「小さくて弱々しい細胞やその集まった形」を支え、全体としての形を整える(裏打ちする)という意味です。建物の構造(物)と同じ意味です。
       なお、革製品の皮はコラーゲンです。コラーゲンは綺麗な線維状の蛋白質ですが、ゼラチンはその規則性を失った変性物です。両者とも熱変性すると液状になり、冷温では線維が絡み合いゲル状になりますが、それでも生体機能・性質を保持しているため実験に用いています。

    5. 染色液は別物と考えれば、実験材料の血清アルブミン、コラーゲン(ゼラチン)、細胞の3種類は生体由来であり、それぞれは生体において最も主要な、また、最大含量の成分です。

    6. つまり、動物体の構成要素を最も簡略に言えば、「固相(固体)・液相(液体)・気相(気体)」の3区分であり、また、体は「細胞と細胞間物質からできている」の2区分で扱います。

    7. 上記のコラーゲンは生体において細胞間物質であり構造性(固相)成分として最も多量に含まれます。構造性の細胞間物質です。液性で最も多い成分は水ですが、血清アルブミン(血液成分)は液性蛋白質として最大含量の成分です。最後の細胞は自律性を示す体の基本単位、主成分です。ちなみに、細胞内の最大含量成分はすでに述べた細胞骨格の主成分アクチンが該当します。(正しくは中間径フィラメントのケラチンですが、その詳細はここでは省略します)。

    8. 従って、この最大含量の3大成分を材料とする本実験の考察は、動物体の成り立ちに関わる重要な知見の提供となるはずです。
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.13  中 Fig.14  右 Fig.15
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では、以下に実験の仕組み/原理の解説です。

    1. カバーガラスは優れた接着基質ですが、生体物質ではないので、本実験では透明性と基盤としての役割だけにするため、血清アルブミンの代替品メチルセルロース(MC)で処理しました。その結果、細胞はカバーガラス表面に接着できなくなります。なお、血清アルブミンは血液成分ですが、血管内では細胞の接着結合を防止する効果も示します。例えば、血球細胞が凝集すれば致死的な状態になると考えることは示唆的です。

    2. 次に、MC処理カバーガラスにゼラチン液で形(絵文字)を描きました。ゼラチン(コラーゲン)は上述のように構造蛋白質・細胞外マトリックスであり、線維性結合組織の主要成分ですが、生体細胞にとっては主要な接着基質としての役割を担っています。先の血球細胞などを例外とすると、すべての体細胞はコラーゲンなどに接着結合して生きています(足場依存性)。

    3. 従って、実験に用いた細胞は、ゼラチン塗抹の部分だけに接着し細胞運動を開始します。メチルセルロース領域には接着できません(あるいは伸展できません)。高濃度の細胞液を用いた理由は、底面充填濃度で細胞培養を行うためです。短時間で隙間のない細胞接着・伸展配列になることを期待したためです。

    4. その結果、予定調和的に実験が進めば、上図のような特徴的な状態が完成します。そのような細胞の状態(性質)を「単層細胞シートを形成」と言います。つまり、細胞は「敷石を敷き詰めたように接着・伸展・配列」するという性質を持っています。従って、動物細胞の基本的な性質とは「足場依存性」に加えて「細胞シートの形成」ということになります。 以上が実験原理です。

    5. しかし、みなさんは、そのような現象的なことが「原理・原則」のような扱いであることに違和感を抱くかもしれませんね。印象的なことを強調して「科学」にすることには抵抗があるのではないでしょうか。このことはとても重要です。それで、次の「4」ではこの観点から解説し、基本的な性質の補完とします。ご参照ください。
      < 先頭行へ移動 ・ 目次へ >

補足と質問

A. 補 足

科学を特徴付ける事項(定義)とは、一般に下記のような項目を満たすことです。

 1)客観的、2)論理的、3)実証的(再現性)、4)予測的、5)数量的、6)知識累積性、など。

つまり、科学とは
 1)誰もが向き合えることで(客観的)、
 2)話の筋道が明瞭であり(論理的)、
且つ、
 3)実際に確認も可能なこと(実証的)。
加えて、それらに従えば、
 4)予想予測も可能(予測的)であり、
 5)数量化により客観性を示す傾向があり(数量的)、
 6)最小努力の最大効果のため「専門用語が増え続ける」(知識累積的)、

と言った性質や傾向を示すことのようです。

科学は「物事を論理的に明快に説明すること」かもしれません。(と思われます)。

B. 質 問

1) コラーゲンとアルブミンはともに重要な蛋白質ですが、加温や冷却すると両者は異なる性質を示します。これについて話し合ってください。
2) 骨は硬組織ですが、酸性溶液に漬けるとカルシウムが溶出します。ではカルシウムを取り除いたい骨の形はどのようになるでしょうか。
3)血液成分の区分を考えツリー構造で表記してみましょう。アルブミンはどの区分に含まれますか?
4) 細胞をシャーレに加えると接着伸展します。では、そのシャーレ3枚に、(1)なにもしない、(2)ゼラチンで絵文字を描く、(3)血清アルブミンで絵文字を描き、その後、それぞれに細胞をたくさん入れて培養し染色するとどうなるでしょうか。図18を参照し考えてみてください。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.16  中 Fig.17  右 Fig.18
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4. 細胞シートはなぜ必要か
 :組織細胞との類似性
の話です。

 上述「3:お絵描き実験」の解説で、本実験の基本的な仕組みは理解できたのではないでしょうか。しかし、動物細胞は「なぜ単層の細胞シートを形成するのか、細胞が重なったまま大きな塊で形作りをしてはいけないのか、本当に体はシート構造からできているのか、シート構造は細胞にとってどんなメリットがあるのか」などの疑問は尽きません。
 それでここではその理由を解説します。つまり、実験原理です。それらは生物学・個体生物学の最も重要な事項かもしれません。少し複雑なので都合が良い時に参照ください。
 なお、「なに・なぜ・どうして・どのようにして・それ本当?」という視座視点の重要性は「4W+1H」と同じようにその常用には練習も必要です。それで平素な疑問や話し合い(質疑応答)は大切にしてください。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.19  中 Fig.20  右 Fig.21
< 先頭行へ移動 ・ 目次へ >

    1. 本実験では高濃度(底面充填濃度以上)の細胞液を用いたため、培養中の細胞は上下に重なった状態になりますが、上に位置した細胞は接着基質(ゼラチン)と接触ができないため、細胞運動の開始シグナルが始まらないので、細胞は培養初期の球状のままでした。しかし、底面に位置した細胞は、自律的に「接着・伸展・移動・配列」し、単層の細胞シートを形成しました。

    2. このことは生体組織の細胞の様態と同じです。つまり、動物体の表面は「切れ目のない細胞シート:上皮組織」からできていることと同義です。と言うより、培養細胞は生体細胞の基本的な性質を保存し、また反映して生きているので「そうなってしまう」と理解することは重要です。つまり、培養細胞を考えることは生体組織細胞のことを理解することとほとんど同じです。

    3. 例えば、皮膚・口腔・肛門など物理的に傷つきやすいところは、その対応として機能分化し重なった細胞層(重層上皮)を示していますが、やはり、切れ目のない細胞シートです。その他の消化管内腔壁(上皮組織:オモテ側に面した細胞層)や付属器(肝臓など)の細胞はもちろん全て「単層の細胞シート」からできています。これらは全て上皮組織ですが、喩えれば、体は「切れ目のない折り紙細工」のようにしてできているということになります。

    4. 特徴的な役割(機能)を担う上皮組織(上皮細胞)は10ミクロン程度の厚さの細胞シートですが、薄く脆弱な細胞層であるため、その構造(細胞シート)を裏打ちするのが強靭な結合組織であり、線維性のコラーゲンなどからなる層です。

    5. 胚発生の時、胞胚、外胚葉・内胚葉という言葉を用いますが、それらは細胞シートのことです。ちなみに、胚葉性とは「細胞の所在」を意味する言葉です。つまり、切れ目のないサッカーボールのような胞胚から、いろいろな発生段階を踏みながら、細胞は連続的に切れ目なく少しずつ分裂増殖し、大きく複雑な細胞シートに変化した・成長したということです。

    6. 例えば、肝臓という大きな塊には毛細血管と毛細胆管も含まれますが、その液性成分以外は殆どが細胞であり、合理的な規則性を示す細胞シート(上皮組織)からできた構造体です。単純な細胞の塊ではありません。 図説集などの模式図(構造図)を参照してください。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.22  中 Fig.23  右 Fig.24
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・・・少し休憩しましょう・・・

  1. ところで、細胞が「隙間なく配列」した後、更に細胞培養を継続するとどうなるか、という疑問(命題)は重要です。その答えは「細胞は増殖を止める」ですが、その理由(解説)は下記になります。

  2. 上記の命題を換言すると、細胞間に隙間があったらどうなるか細胞シートに傷をつけたらどうなるか、と同義です。つまり、正常な動物体の表面や管腔内壁は切れ目のない細胞シート(上皮組織)の状態なので、切れ目(ギズ)が生じると細胞分裂が始まります。隙間があるという状態はやはりシグナル伝達の開始シグナルであり、つまり、それに従い分裂増殖して切れ目のない細胞シートを作ろうとするという性質を示します。生体では傷が治る「損傷治癒」の現象です。

  3. その結果、隙間がなくなると、つまり、隣接細胞と接触すると、この接触反応は増殖停止のシグナル(シグナル伝達の開始シグナル)になり、その情報が細胞核まで伝わり細胞は細胞周期のG0(ジーゼロ)に移行します。この細胞同士が接触し増殖を停止する性質を「接触阻害」と言います。

  4. 別の見方をすれば、細胞シートが完成した後も接触阻害という現象・反応が働かず、いつまでも分裂増殖を続けるとどうなるか、という疑問になります。結果は簡単で、分裂増殖し不規則な細胞の塊が生じるですが、このことを生体では「ガン」と呼びます。それでこの「接触阻害:コンタクト インヒビッション」といいう現象は大変重要です。重要なシグナル伝達です。

  5. 少し専門的に言えば、接触阻害という刺激(シグナル)は、細胞核まで伝わり「がん抑制遺伝子」の蛋白(遺伝子産物)の働きを不活発な状態にします。つまり、この遺伝子産物が不活性な状態になると増殖停止となります。この遺伝子に何かの原因で異常が生じると、いつでも活発な状態(発現した状態)になり、節度なく分裂増殖するためガンになってしまう、ということになります。

  6. また、細胞は足場に拘束されています。足場依存性に基づく単層細胞シートの形成という規則(性質)に従っていますが、これが消失する・変化すると、細胞は規則(足場)に従わずランダムに分裂増殖することになります。「ガン」になってしまいます。つまり、足場依存性が希薄な細胞は、仲間の細胞の上でも、また、遊離しても生きていけるので、どこへでも移動し(転移し)増殖するようになってしまいます。がん細胞が転移するという現象です。

  7. 生物学習では「細胞は分裂増殖する」と習いますが、生体組織の細胞は上述のように闇雲に増殖してはいけないので、隙間がなくなればG0に移行し、分化した機能発現細胞になり、増殖することなく特定の役割を果たします。これを調節するのが「転写調節遺伝子」やその因子(遺伝子産物)です。すなわち、正しいシート構造になれば分裂増殖は不必要なので、これは終わりにして、役割を担う仕組みが働き始めるということです。聞いたことのある人も多いと思いますが、このはじめの調節を「エピジェネティックス:遺伝子発現の制御や伝達方法」と言います。DNAにメチル化やアセチル化された部分が関係します。

  8. ちなみに、組織の「分化した細胞」には寿命があるので、死に絶えた細胞の補充には「幹細胞」がその役割を果たしますが、これ以上書くと嫌がれるし、iPS細胞の話にまでなってしまうので、ひとまず終わりです。

  9. 従って、つまり、動物細胞の基本的な性質は「足場依存性と細胞シートの形成」ということになります。

  10. 以上が「細胞シートはなぜ必要か」に対する回答ですが、簡単に言えば、「仲間と自律的・協調的に生きるため」というのはいかがでしょうか。やはり「ダメだね」の場合は次も用意しました。

  11. そもそも、体の基本「単位」は細胞であることには、みなさんも同意してくれると思います。単位なら性質があるわけで、細胞は「点」、その集合体(細胞シート)は「面」、切れ目のないシートは「立体」と考えることができます。「点・線・面・立体」のことは他教科でたくさん学習したはずですが、細胞は生物進化の過程で、その最小努力の最大効果を発揮する性質「足場依存性と細胞シートの形成」を獲得し、それに従って生きている、という説明は如何でしょうか。
    やはり、これでも、ダメですよね〜!

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.25  中 Fig.26  右 Fig.27
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5. 培養細胞はどのようにして生きているのか?:細胞培養技術と生体「組織細胞」との類似性について
 (細胞培養3要素+α)

 細胞培養実験を考えることは「生体組織細胞の様態の考察である」ということに気付いたと思います。また、みなさんが抱いた小さな疑問を大切にすることが、そもそも大切な仕組み・原理(基本的な性質)に繋がっている、ということは興味深いことです。
 ちなみに、「細胞培養」のことを「組織培養」と言い表すこともありますが、基本的な技術はほぼ同じで、その違いは「意識・こだわり」と思っても良いです。シャーレの中に生体組織のような形態や細胞集団を作ってみるにはどうしたらよいか、ということです。繰り返しになりますが、その培養技術はほぼ同じですが、細胞培養3要素に改良を加えたりしています。今では、遺伝子導入ということも行っています。
 ところで、例えば、細胞実験の時、みなさんは「培養細胞って何? この赤っぽい液は何?」などの疑問を持ったと思います。それで本節では、実験技術の解説に戻り、みなさんの小さな疑問に答えるため細胞培養法の解説を行います。つまり、細胞培養技術「細胞培養3要素+α」を示します。それらの必要性について、改めて、生体との類似性から考えてみましょう。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.28  中 Fig.29  右 Fig.30
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    1. 体から分離され「人為的に維持管理される細胞」のことを培養細胞と言います。長期に渡り継代・維持されても死に絶えない(細胞寿命の限界が現れない)培養細胞は、「株化細胞」と呼びます。資質が一様で系統化された細胞という意味です。試験研究にとっては都合の良い細胞です。 なお「ヘイフリッックの細胞寿命の限界」ということも念頭としてください。

    2. 細胞培養とは「細胞が生きるに必要な環境(培養条件)を整えること」ですが、「生体組織細胞が位置する微小環境を人為的に再現する」ということがその指針になります。

    3. 一般的な培養細胞が生きるに必要な条件・要素(細胞培養3要素+α )とは「A. 培養基質、B. 基礎培地、C. 必須添加物(情報伝達物質)」の充足であり、加えて「D. 温度、無菌性、pH、継代」などにも配慮が必要です。つまり、細胞培養技術とは「細胞培養3要素+α」を充足することです。その結果、細胞は一連のプロセスを経ながら仲間と一緒に自律的に生きているということになります。 なお、3要素(A・B・C)などの詳細は下記(6〜)で参照です。

    4. 多くの培養細胞は足場依存性/接着依存性(基質に接着伸展して生きる)という性質に拘束されています。「シグナル伝達」の開始反応です。それで細胞培養は培養容器(専用の培養フラスコやシャーレ)の中で行われます。その構造は、重複しますが、「固層(接着基質:底面)、液層(培養液:各種の栄養素)、気層(ヘッドスペース:空気)」の3層構造です。

    5. その様子は、その容器の中で、細胞は足場依存性であるため、底面に接着伸展し培養液(液相)の中で生きているというイメージです。培養液の上に面する随分と大きな気層/気相は酸素や炭酸ガスなどのガス交換のために必要ということです。

では、以下に「細胞培養3要素+α」がなぜ必要かについて生体組織細胞との類似性から解説します。


A. 接着基質
動物細胞は足場依存性であり、生きるためには接着基質が不可欠です。容器底面(特殊加工されたポリスチレンなど:親水性になっている)の役割はその接着基質(足場)です。既に解説しましたが、これは生体細胞が基底膜や細胞外マトリックス(ECM)に接着結合して生きていることと同義です。従って、容器底面を天然型の接着基質や細胞接着因子(コラーゲンやフィブロネクチンなど)で処理(コート)し、細胞培養に利用することは理にかなった方法です。基質との接着反応もシグナル伝達であるので、接着因子の使い分けにより細胞は異なった形態や機能を発現することも事実です。

 

B. 基礎培地
我々は5大栄養素の吸収(摂取)を必要としていますが、培養細胞も同様です。つまり、細胞培養3層構造の液層とは「液体培地」であり、栄養素の混合液です。無機塩、糖、アミノ酸、ビタミンなど27種類以上の生体分子が含まれます。最も有名な培地はMEM(イーグルさんの最小必須培地)です。pH指示薬(フェノールレッド)も含まれるので、通常の培地は赤橙色で使用します。脂質成分は液体には溶解しにくいので多くの市販培地には含まれませんが、脂質前駆体となる成分は含まれるため、細胞は自前で合成し膜成分などとして利用します。なお、培地成分のそれぞれはどのような役割や代謝経路にあるかを考えること・学ぶことは重要です。 基礎培地や必須添加物(血清)などの化学的な成分一覧は文末の付録を参照(ココ)。

 

C. 必須添加物(情報伝達物質)
:我々は栄養素を吸収し活動しますが、生きるためにはホルモンによる刺激(情報伝達)も不可欠です。培養細胞でも同じです。上記の基礎培地の成分は基本的に化学物質であり、蛋白質などからなるホルモンなどの情報伝達物質は含まれていません。この状態では培養細胞は増殖しません。それで、細胞培養3要素の最後として、その役割を補完するため必須添加物を加えるということを行います。
  それらは細胞増殖因子(細胞成長因子)という総称で扱われます。つまり、上皮成長因子(EGF)やインシュリンなどを培地に添加し細胞を刺激すると、細胞は元気に分裂増殖します。
  しかし、それらの物質はとても高価なので、またそれらの必要性が不明瞭な時代から、細胞培養では「血清」を添加し細胞を元気にするという方法が用いられてきました。それで、血清は細胞培養の必須添加物となります。脂質成分も水溶性の状態で都合よく含まれています。血清成分は「付録」に記しました。なお、血清の代わりに細胞増殖因子などを加えた場合は「無血清培養」と呼ばれます。無血清無蛋白培地も可能です。

 

D その他1. 温度
:我々は体温を維持することができますが、細胞自身にはその仕組みはありません。それでインキュベータで培養温度を設定することは重要です。細胞の様々な代謝はいわば化学反応であるため温度に依存します。そのため培養温度の設定は重要です。

D その他2. 無菌性

我々は生体防御機構があるので細菌が侵入しても通常は排除されますが、培養フラスコの中に大気中の雑菌が混入するとそれらが大増殖して細胞は死に絶えてしまいます。それで、細胞培養技術では滅菌処理や無菌操作を必要とします。更に、培地には抗生物質(カナマイシンなど)を添加し無菌性の維持に努めます。

D その他3. pH維持

我々は呼吸しています。ガス交換です。培養細胞も酸素が必要であり、ガス交換(内呼吸)を行っています。細胞培養3層構造のヘッドスペース(気相)はその供給源です。なお、我々は炭酸-重炭酸緩衝系で体内のpHを維持していますが、培養細胞でも同様に基礎培地には重炭酸ナトリウムが含まれています。炭酸ガス培養槽(インキュベーター)は室温より高温の37℃では、培地中の炭酸ガス濃度が低くなるので、気層にそのガス圧を与え、その結果、pHを維持しています。

・・・・・・・・・・・・・・

以上、多細胞動物の培養細胞が生きる仕組み「培養法:培養3要素」でした。いかがですか。深く考えると大変難しい話です。しかし、技術習得の時は、This is a pen.みたいで、当たり前のような気もしますが、技術とは「物性」理解に基づくものなので、今後はその観点から改良も可能ということです。その気になってみてください。技術開発は新たな視野を開きます。
  ところで、単細胞のアメーバーや細菌などは足場依存性がありません。そのため培養技術は動物細胞より簡単であるということができます。この意味わかりますよね。

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<6. その他の話題>

6a. 外・表・真、上・中・内:何が同じでどう違う?

 大根の「皮」も含め、皮とはどのようにイメージするか、を扱います。

 このテキストでは、動物細胞の基本的性質「細胞シートの形成」について説明しましたが、この細胞シートのことを生体では「上皮組織」という用語で言い表します。この用語は「オモテ側の細胞層」という意味です。また、このテキストでは、体構造に「固相(固層)・液相(液層)・気相(気層)」という区分・考え方も示しましたが、そもそも我々が簡単に識別する体(内)の形(臓器などの形)とは、「気相や液相に面する表面」の形、と考えるのはいかがでしょうか。気相・液相に対面する表面は細胞シート(上皮組織)からできているという話です。それらはその所在に従い3つの区分「上皮、中皮、内皮」として扱います。つまり、上皮組織には3種類の様態区分があるということです。なお、上皮組織とは組織4区分(4大組織)のひとつです。
 ところで、上皮とは、体外に繋がる体表や管腔壁(消化管・その付属器、呼吸器、泌尿器の管腔壁)のこと。例えば、口から入って壁(細胞シート)を伝ってどこまでも進んで行くと肝臓の中・奥まで到達してしまう、という話です。中皮とは、体内に埋没したドーム状の体腔の表面(内壁:漿膜)、つまり、腹腔壁とそれに繋がっている腹膜・腸管膜や胸腔、囲心腔などの内壁(細胞層)ことです。内皮は、体内に埋没した循環系の血管内壁(リンパ管も)のことです。全てオモテ側に位置する細胞層です。つまり、これらは全て気相・液相に対面する細胞シート(上皮組織)であり、「形」の根拠になります。
 その結果、その脆弱な細胞層(上皮組織)のウラ側には何がある?とみなさんも考えると思いますが、その単純な疑問が構造レベル「組織」という考え方の始まりです。つまり、既出の上皮組織のウラ側には、結合組織、筋組織、神経組織という区分があるという考え方で、この4区分を「4大組織 4 basic tissue」と呼びます。
 これらは体構造の見方・考え方「構造レベル:階層性」であり、「細胞」の上位は「組織」レベルということです。ちなみに、構造レベル「細胞」が集まると「組織」レベルになりますが、例えば、細胞が集まると骨組織ができると信じる人はいないと思います。補足すれば、細胞レベルとは「細胞と細胞が生み出す物質」という意味です。つまり、「細胞説」のことです。それで「細胞」は体の基本単位です。ちなみに、骨(骨組織)はコラーゲン線維(これを生み出す細胞が線維芽細胞)に骨細胞の働きでカルシウムが結合した硬い組織ということです。
 ところで、上皮組織という表面(層)を基準にして、体構造には「オモテ側とそのウラ側」という客観的な方向性がある、あるいは使えることは大変便利な話です。つまり、ウラ側とは体の中に埋もれた部分であり、それは、従って、体の断面の考察ということになるますよね。模式図を見る時は「構造図:要素の配置と繋がり」として考えながら取り組みますが、そのためにも客観的な方向性は大切です。
 話は「4大組織」に戻りますが、神経組織は発生初期のオモテ側(外胚葉)の細胞シートが体内に陥入埋没した神経管に由来しますが、結合組織と筋組織は、体外と直接繋がっていない埋もれた部分であり、その起源は中胚葉に由来します。つまり、中胚葉の意味するところです。
 ウラ側の主役の結合組織は、上皮組織を裏打ちするフェルトのようなコラーゲン線維を主成分とする線維層(線維性結合組織:真皮など)とその産生細胞(細長い紡錘形の線維芽細胞)、骨・軟骨、脂肪、肥満細胞、血球なども含まれます。結合組織の大区分(構成要素)はいろいろありそうで混乱しがちですが、実際には少数で限られています。それでツリー構造で考えることも必要です。
 なお、血管内腔の血球なども結合組織の成分です。これは、ウラ側ではなく血管内皮のオモテ側にありますが、体内に埋没した体外から直接繋がっていない部分にある成分なので結合組織に属します。つまり、オモテ側の細胞機能を繋ぐ組織が結合組織です。ちなみに、体外へ繋がった液性成分とは唾液や胆汁や膵液などの消化液(上皮組織の成分)のことです。
 中胚葉由来の体内に埋もれた筋組織は細長い筋細胞(筋線維)が長軸方向に層状に配列した構造です。それぞれの筋細胞は基底膜(コラーゲン膜)に包まれています。つまり、足場依存性であり、簀巻き状態の筋細胞が層状に集まった部分です。なお、筋構造にはいろいろな様態用語が用いられていますが、やはり、構造レベル(階層性)の規則に従った話なので悩まないようにしてください。ちなみに、横紋筋とは多核巨細胞であり、たくさんの細胞が融合してできた細胞のため、細胞膜の直下には細胞核が散在します。
 かなり前置きが長くなりなりましたが、では話の本題です。
 それでこの話題の「外・表・真、上・中・内:何が同じでどう違う?」のことですが、「皮」を考える方法は2つ。一つ目、「皮」とは饅頭の皮、大根の皮などと同じように「オモテ側の境界面(層)」という意味です。二つ目は用語の意味の理解から。つまり、いわゆる動物の皮(外皮・皮膚)を剥ぐと「細胞層と線維層」が一緒に剥がれるため一般的には区別はしませんが、実際には2層「表皮(表側の皮:細胞層/上皮組織)と真皮(本当の皮:線維層/結合組織、革製品の皮)」です。上皮・中皮・内皮は既に説明した通りです。なお、皮を剥ぎ取った時に出血する場合は結合組織にも傷を与えたということです。表皮(細胞層/上皮)には中胚葉由来の血管はありません。
 すこし混乱したと思いますが、この6つの「皮」用語を考えることは以上のことから少なからず大切ではないか思っています。生物学には上記のような基本的な考え方が幾つかあります。生物学も科学なら用語の丸暗記ではなく、その考え方(ロジック)を学び考えることも必要と思いますが、皆さんはどう思いますか?
 その事例は「動物生理の基本:2系6要素・器官系11区分とその配列」や「階層性9区分と配置」などですが、それらは動物体の構造はどのようになっているか?という平素な疑問に基づき作られたものであり、やはり、「要素の配置とその繋がり」という視座視点でできています。生物学習の「基本」と思っています。初歩・基礎・応用・専門などいろいろな学習レベルがありますが、ベイシックな考え方はどのレベルにも不可欠ではないかと思っています。
 ネコの前にサカナを置いたらどうなるか(動物生理の基本)などは、必要に応じて確認してみてください(実演生物学ギャラリーを参照)。筋肉構造の考え方も面白いと思っています。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.31  中 Fig.32  右 Fig.33
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6b. 眼の構造と形成

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.34  中 Fig.35  右 Fig.36
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 眼の形成は、高校生物の必須課題?(Fig.35)「発生・誘導」として既に学習していると思いますが、組織像(Fig.34)で見るその構造(要素の配置とその繋がり)は複雑だなと思ってしまいます。それで「発生・発生学」ということを学ぶのだろうと思っています。生物体のことは「形・役割・仕組みと由来」なので、複雑系の「眼」を学ぶことは確かに重要なので、ここでは既に述べた「シート構造とシグナル伝達」という観点から少しだけコメントします。
 つまり、「いろいろな発生段階を踏みながら、細胞は連続的に切れ目なく少しずつ分裂増殖し、大きく複雑な細胞シートに変化した・成長した」ということを述べましたが、教科書で見る「誘導による眼の形成」という模式図(構造図)は確かにこのことを示しています。
 神経管という「神経上皮:細胞シート」の一部が突出して「眼胞」になり、表皮の一部が肥厚した細胞層(プラコード)に近接した後、陥没して眼杯(網膜原器)になる。さらにそのレンズプラコードという細胞シートも陥没し、球状になって表皮から離脱してレンズ原器になるという話です。
 これも「接触阻害」のようなシグナル伝達であり、眼胞がプラコードに近接するとその情報が刺激となり誘導という現象になり、シート構造が変化し「レンズ胞」になると理解されています。つまり、説明の必要はないと思いますが、複雑な形も細胞シートの「繋ぎ変え」という過程を経ることにより複雑な形を形成することができるということです。
 ちなみに、初期のレンズはサッカーボールのように中空ですが、底側(脳側)の細胞シートの細胞がタケノコのように細長く延びて上面の細胞シートと接触すると隙間のないレンズになります。やはりシート構造ということができます。細長く伸びた細胞同士はジッパー構造で緻密に接合します。その細長い細胞は透明物質(クリスタリン)を蓄え「水晶体線維」と呼びますが、これも細胞のことで、線維のように細長い細胞という意味です。
 ちなみに、網膜の細胞は神経管由来なので情報伝達に特化した神経細胞です。その形成中は同様に細胞シートを示し、その役割のため重層化した配列で「網膜4層構造」になっています。主要なものは脳側から「色素上皮細胞、視細胞、双極細胞、視神経細胞」です。視細胞の外節(錐体・桿体)に光がぶつかると、左記の細胞を経由して情報が脳まで伝わります。双極細胞とは軸索が長軸2方向に伸びた細胞で、視細胞と視神経細胞をつなぎます。なお、網膜の構造は10層構造と習う人も多いと思いますが、「網状層」という用語は軸索の層で、顆粒層というのは神経細胞の核が良く見える層ということです。なお、色素上皮細胞の層と視細胞の層はオモテ側で向き合っています。視神経細胞からはその軸索が長く長く伸びて集まり、束になって脳まで続きます。
 「眼の形成や誘導」には用語がたくさんありますが、ほとんどが様態用語なので、その語彙はそのイメージから自分なりに理解すると親しみやすくなると思います。また、構造(要素の配置とその繋がり)という前提は言うまでにありませんね。 なお、眼の形成・発生の模式図も「構造図」なので、その説明や理解には「要素の配置」を前提に、その要素の変化(配置とその繋がりの変化)に配慮した解説・通訳が必要です。

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6c. 等張液について

 細胞培養には既に述べたように液体培地が不可欠です。これは等張液と考えて良いのですが、しかし、少し誤解があるのでコメントします。
 例えば、本実験の細胞を長期間放置すると結果的に細胞は死んでしまいます。その時、観察すると等張液の培地を用いているのに、細胞は少し膨れます。または細胞膜表面に「風船・タンコブ」のような膨出(ブレッブと呼ぶ)が生じます。つまり、等張液なのに細胞はなぜ低張液の中のように膨化するのか、という疑問が生じます。ブレッブはアポトーシス小体のイメージでもかまいません(次節の「細胞の写真集」にあったはずです)。
 なお、本実験で、例えば等張ホルマリで固定すると、細胞膜表面には細胞膜に「風船・タンコブ」のような膨出(ブレッブと呼ぶ)が生じます。そこで、細胞形態の維持のため、固定能力が優れたグルタルアルデヒドを主成分とする固定液を用いています。  ちなみに、「固定」とは蛋白などの立体構造が固める(変化しなくする)処理であり、ホルマリン(ホルムアルデヒド)などのアルデヒド基はタンパク質のアミノ基などと都合良くランダムに結合するので、その結果、タンパク質の中には無数の架橋(結びつき)ができるため、構造が固まったようすることです。エタノール固定の場合は脱水作用のため腐らなくなるというイメージです。
 ところで、生きている細胞の細胞内の各種のイオン濃度(350mOsくらい)は外部より高いく、その細胞外液は低い(300mOsくらい)状態で細胞は生きています。その結果、生きいる動物細胞や、また、細菌でも、細胞の中には水が浸透します。
 つまり、等張液とは「生きている細胞」のために必要な濃度(等浸透状態)のことです。実際には細胞外液は低張なため、生きている時は「水が侵入します」が、生き続けるために、細胞は自分で水を排出するという努力を示しています。細胞は常にNa-Kポンプにより「水」を吐き出し「等浸透状態」で生きているということになります。しかし、水を汲み出すためにはかなりのATP(摂取した糖分の3割くらい)が必要ですが、その代わりATPをたくさん作る装置を動かし、種々のATP依存代謝を行いながら、膜表面では膜電位を生じさせ、それらを使って生命活動をしている、という解釈も成り立ちます(逆の考え方でも良いです)。
 ちなみに、酸欠になると脳細胞が一番先に死にますが、その時はやはりタンコブ(ブレッブ)ができるようです。つまり、脳細胞はATPをたくさん必要とします。その内呼吸が酸欠のため低下するとATPが欠乏するので、水がくみ出せない、という身も蓋もない説明になってしまいますが、それで脳のためには酸素や糖分が大切という話です。
 少し難しい話になりましたが、等張液と生きるに必要な等浸透状態の違いを理解することは重要と思うので書きました。つまり、外的な刺激があるからこそ自律的な仕組みを作り・使い、」生きているという話になりました。 動物細胞も細菌細胞も同じです。アメーバーでは収縮胞で、細胞壁の場合は膨圧で水を押し出します。
 なお、赤血球を少し低張液に入れると少し膨らみますが、その後は元のサイズに戻るという現象は、生物学らしくて好ましい話です。少しくらい低張でもなんとか生きる努力すれば元に戻るということになります。

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6d. 実験学習に関わる話題・質問の一覧
 :学習チェックリスト

 細胞実験学習には個体生物学全般に関わる多様な視点観点が含まれます。下記は細胞実験の時々あるいは時を改め利用可能な「協議事項」の一覧です。それらは必ずしも答えを求めるものではなく、細胞実験に基づく「考える筋道」であり、状況に応じて任意に扱われる事項と考えています。少し小難しく書いてありますが、教科書や図説集などを参照しながら、細胞実験から動物体の成り立ちを思い描いてみましょう、ということです。話し合いの「話題」と考えてください。 つまり、生物学演習(命題・原理・実証考察)の必要性です。それで、時には気ままに生物演習・疲れた時の生物演習・一息ついて生物演習、です。

Q1. 細胞培養実験の前提

    1. 培養細胞・細胞培養って何、培養細胞はどこに由来(起源)するか?
    2. 階層性って何、細胞は階層レベル(構造レベル)のどこに位置するか。その場合、どのような疑問が生じるでしょうか?
    3. 一般的な細胞培養の様態は「3層構造・細胞培養3要素+α」の充足:それぞれはどのような状態ですか。どのような物質・成分でしょうか。

Q2. 実験材料・生体物質について

    1. 接着基質は細胞外基質(ECM)とも呼ばれます。この基質(M)はマトリックスであり色々な場面で使われますが、どのような意味合いでしょうか。
    2. ゼラチン・アルブミンについて知るところを上げてみよう。ゼラチン・アルブミンは体のどの部分にあるか、どのくらいあるか。物性の違いは?
    3. 骨からカルシウムを除いたらどんな「形」になるか・なぜなるか?
    4. 血液成分をツリー構造で表記してみよう(血清・血漿・血餅って何?)。
    5. 生体成分を次の用語から考えツリー構造で表記してみよう(細胞、細胞間物質、構造性物質、液性物質)。

Q3. 細胞・培養細胞について

    1. 細胞は膜構造体であり浮遊状態の動物細胞は球状です。その理由は何でしょうか。
    2. 細胞表面(細胞膜)にはどのような構造(部品)があると思いますか?
    3. 動物細胞の大きさはどのくらいか。バクテリア、ウイルスの大きさは?

Q4. 細胞実験の経過・結果について

    1. 培養時間は細胞自身にとってどのような意味役割があるか?
    2. 培養容器に入れた「はじめは球状の細胞」はその後自律的にその形態を変化させます。具体的にはどのような状況でどんな行動・様子を示しましたか。
    3. 伸展していない球状の細胞を無視し、底面に接着し伸展状態の細胞の「形」を幾つか描き、細胞と細胞集団が示す特徴を表現してみよう。
    4. お絵描き実験:なぜ「形」が現れたのか、材料と方法から考えてみよう。

Q5. 固定染色標本を通じて

    1. 固定処理にはどのような効果があるか。ホルマリン(ホルムアルデヒド)が固定効果を示す仕組みとは?
    2. クリスタルバイオレット(CV)は塩基性色素である(とします)。では、細胞はどのようなところが濃く染まるか?

Q6. 結果考察

    1. 培養時間に差がある単純培養(#2標本)の観察結果を客観的・簡便に評価するにはどのような評価基準を使用すればよいでしょうか?
    2. お絵描き実験:顕微鏡観察した細胞・細胞集団はどんな様態を示していますか。また、その様態のメリットとはどのようなことでしょうか?
    3. 観察結果から動物細胞が示した主な特徴「基本的な性質」とは何?
    4. 実験とはともかく何かを確かめること。気になることを箇条書きにしてみよう。話し合ってその特徴をまとめてみよう。
    5. 実験方法や材料の性質を明らかにするためは「対照実験」や「発展実験」が必要である。新たな実験プラン(対照実験)を設計してみよう。

Q7. 総合考察

    1. 「細胞説」や「構造」とはそれぞれどのような意味でしょうか?
    2. 細胞の基本構造を「構造:要素の配置とそのつながり」の観点から教科書を参照し模式図化してみましょう。また、その主な役割を考えてみよう。
    3. 基本単位「細胞」は、いわば「点」であり、それが集まると「面/細胞シート」になる。それが閉じれば「立体」になる。では、動物体の細胞はそのような様態/様子を示しているのだろうか。どう思う?

Q8. 細胞培養実験に基づく発展考察(1)

    1. 「細胞培養3要素+α」を生体との類似性から考えてみよう。例えば、培養液にはどのような成分が含まれているか。なぜ必要か考えてみよう。
    2. 実験で確認した「細胞シート」と呼ばれる様態は動物体のどこにありますか。「組織学自主トレーニング」の腸管の画像で確かめてみよう(次の3も参照)。
    3. 我々は何もないところに対面する境界から「形」を認知します。では、体の形(器官・臓器)の表面には何がある。どのような用語で呼ばれますか。
    4. では、器官系の概要を「管状構造に基づく動物体の描き方:器官系の理解」として扱い「線や形」の状況を確認してみよう。

Q9. 細胞培養実験に基づく発展考察(2)

    1. 器官系は11区分とされます。その順列・配置を「動物生理の基本:2系6要素」の観点から表記し話し合ってみよう。
    2. 細胞自身は何をしているか。細胞機能を上記「動物生理の基本:器官系11区分」との対応関係として「考察の視点の類似性」から考えてみましょう。
    3. 細胞は基本単位である。今日の実験からその必然性を述べなさい。

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Q10. 細胞培養実験に基づく高度かつ重要な協議事項

1. 細胞に関連して

    1. 細菌(細胞)と動物細胞の培養技術は随分違います。技術とは対象の物性や性質の理解に基づき開発されます。では、左記の違いはどのような細胞の性質が関係するのでしょう。実験状況から考えてみましょう。
    2. 細胞の培養容器には広い空間(気層)があります。なぜでしょうか。また、細胞はその気層成分を何に使うのでしょうか?
    3. 等張ホルマリンで固定すると細胞の表面(細胞膜)に風船玉のような小さな膨出ができます。何故でしょう。等張液、等浸透状態、Na-Kポンプの観点から考察してみよう。
    4. #1と#2の標本では細胞の接着基質が異なります(ゼラチンとカバーガラス)。同じ細胞でも接着伸展の開始時間はカバーガラスでは5分後くらい、天然型基質では約20分後と随分違います。なぜでしょうか。
    5. 細胞が示す「接着伸展の仕組み」を「構造」から考えてみましょう。用いる用語は、例えば、ECM、インテグリン、細胞接着、細胞骨格、アクチン線維、仮足、細胞運動、シグナル伝達、など。
    6. 細胞を培養すると自然に底面に接着伸展(運動)します。人工物と比較しその特徴を簡単に言い表すにはどのような表現が適していますか。

2. 組織と由来に関連して

    1. 「気相・液相・固相」は状態の基本3区分です。ではこの区分は動物体(構造)のどこにありますか。少し考えてみましょう。
    2. 動物体には「皮膚・表皮・真皮・上皮・中皮・内皮」など「皮」という用語が多用されます。皮は一般的には「大根や饅頭の皮:外界に面した部分」に使われます。では、左記6つの「皮」は動物体のどこにある構造でしょうか。下記3も参照し考えてみましょう・協議してみましょう。
    3. 動物体の気相・液相に面するところは「オモテ側の皮:細胞シート」です。では、その「ウラ側」には何があるでしょう。また、それぞれは組織区分で何と呼ばれますか。発生学的には何胚葉に由来しますか?
    4. ウラ側の「細胞」は約8区分と考えられます。では何が該当するでしょうか。由来(起源)も意識しながら考えてください。
    5. では、魚類マクロ組織のバーチャル顕微鏡観察を行い、気相・液相に面する「上皮組織:上皮・中皮・内皮」を確かめてみましょう。その時のコツとは?
    6. 動物体の腹部横断面を模式図として描いてみましょう。必要に応じて組織4区分や発生学的な由来(胚葉性)のことも考えてみよう。

3. コラーゲンに関連して

    1. 実験ではコラーゲンの変性物「ゼラチン」を用いました。タンパク質の「変性」とはどのような状態・意味ですか。卵白を加熱するとなぜ白く見える?
    2. コラーゲンは海綿動物などにもある重要な細胞間物質ですが、進化において「多細胞動物化」に大きな影響を与えたと考えられています。つまり、コラーゲン合成の仕組みです。酸素やビタミンCなどが関係します。調べてみましょう(お肌美容も関係するかも)。
    3. 傷のため出血した皮膚でも短期間で治ります(損傷治癒)。この現象は止血反応でもあり、血管の基底膜(コラーゲン)、血小板、細胞接着(因子)などの用語が関係します。どのような仕組みと構造から成り立っていますか。
    4. 動物の体温(生育温度)とコラーゲンの変性温度は相関します。ヒト、南極の魚、冷水魚、温水魚について調べてみよう。体温計の上限は何℃?

4. 細胞周期に関連して

    1. 細胞シートは「敷石を敷き詰めた」ような状態(隣接する細胞同士が接触した状態)です。では、隙間のない細胞シートを継続して培養すると細胞はどのような行動をするでしょうか(下記2も参照)。
    2. 細胞シートに隙間があったら(できたら)、細胞はどのような行動をとるでしょうか、細胞周期から考えてみよう。また、それはなぜ必要でしょうか。
    3. 細胞の「基本的な性質」が希薄になると「ガン」と呼ばれる異常が生じます。では、どのような様子のことでしょうか。
    4. では、ガン遺伝子・ガン抑制遺伝子とはどのような遺伝子でしょうか。例えば、RB遺伝子について調べ、その違いを分かり易く説明してください。
    5. 英語の「遺伝」という用語には「継承」という意味が含まれます。では、生物系で継承される現象にはどのようなことが挙げられますか。遺伝って何?

5. 機能発現に関連して

    1. 単純な細胞培養技術では、培養細胞は平たい扁平状の形態を示しますが、体内では腸管の上皮細胞のように「円柱状」など、多様な形態で機能します。では、例えば、腸上皮由来で単純培養のため扁平状態を示す細胞を、生体に類似した円柱状細胞にするにはどのような方法・技術を用いれば良いでしょうか。生体組織細胞の様態から考えてください。
    2. 個体は同一遺伝子を持つ数十兆もの細胞からできていると言われています(ちなみに最も多い細胞は赤血球)。ところで、各器官・組織の細胞は異なった形態や役割を示します。同じ遺伝子を含むはずの細胞が異なった形態や機能を示す「仕組み」で重要な点はどのようなことでしょうか。

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<7. 関連ウェブサイト(資料)の紹介>

以下に示す関連ウェブサイトへは下線付き文字列をクリックして移動・参照します。移動先から本編へ戻る時はそのサイトにある「TopPageへ」の文字列を利用し、改めて本サイトを開いてください。

  1. 魚類培養細胞の形態・運動・細胞分裂など(写真集): 本実験に用いた魚類培養細胞の運動性(形態変化)を、連続的に顕微鏡観察したスライド集です。

  2. カバーガラス培養細胞染色標本の作り方: カバーガラス培養法・標本作成法の解説です(方法は少し違っていますが参考になるはずです)。

  3. 動物細胞の構造の描き方: 少し不真面目ですが「細胞くん」を参照してください。つまり、細胞の構造なので「要素の配置とその繋がり」を強調した考え方です。

  4. 動物体構造の描き方: 「細胞くん」と同様の観点から試してみましょう。

  5. 動物生理の考え方: 器官系の考え方(2系6要素:器官系11区分とその順列と配置)です。 生物学習に不可欠な古典的なロジックです。

  6. 細胞生理の考え方: 基本的な考え方は「考察の自己相似的」な面を含みます。つまり「動物生理の基本:役割の系統:器官系11区分・2系6要素+α」の細胞版です。 細胞の構造俯瞰図が描けるようになってください。

  7. 動物体のシート構造とその極性: 動物体の構造を「細胞シート(上皮組織)の観点」から具体的に考えてみましょう。

  8. 魚類マクロ組織の顕微鏡観察: 本編の解説は動物組織に関わることが多かったので、その実体?を示します。移動サイトの組織像にある番号をクリックするとその拡大像が観察されます。例えば、細胞シートの構造を確認してください。最初は、皮膚(0)、消化管(26)、腎臓(12)、目(3)などが適していると思います。
      または、インターネット地図のように体内を拡大縮小したい場合は、次の「バーチャル顕微鏡観察」のサイトを参照してください。ただし、タブレットPCなどで見る時はブラウズ「Puffin」などが必要かもしれません。

  9. 本編に関連することは本当にたくさんあります。それで都合の良い時にでも「実演生物学ギャラリー」を参照し、興味あるサイトを参照してください。

  10. 本編に関連して、細胞実験学習を系統的?に扱った学習サイトは「実験講義2:単位細胞に基づく動物体の成り立ちとその概念化」です。なお、「迷路のようで疲れてしまう」という感想もあるので、そのことはここにお詫びしますが、試してください。

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8. 解説:細胞標本の観察指針
 :視点・観点・その表現

 ここでは、固定染色後の細胞標本を観察するとどのように見えるかという観点から解説します。受講者との質疑応答の時のヒントになればというつもりです。その視座・視点は「構造」。つまり、実体あるものには構造がある。構造とは要素配置とそのつながりであり、その要素は構造レベル(階層性)に従い段階的な考察を必要とする、です。なお、要素と要素がつながるとそこには何かしらの状況や効果が示されると考えます。この指針に沿った細胞標本観察の事例を下記の表8.1としました。

 つまり、標本観察とはこの「構造」という観点から見たままに表現すること(でもある)と考えています。このことがどの程度有効であるか、その例題は下表の質問(作業)に例題として記しました。試してみてください。なお、上記に加え、要素の役割は「動物生理・細胞生理の基本:2系6要素」に基づく考察である、ということも発展的には関連すると思っています。いずれにして実体と概念の連立連携が目的です。

 観察のはじめは、平素な様態表現(丸い・平たい、粒・粒々、散らばった・集まった・重なった、多い・少ない、濃い・薄い、など)で扱い、専門用語の扱いは、その様態要素に対する「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という考察の経緯から補完として用いることも妥当と考えています。なお、専門用語とは最小努力の最大効果を期待したものと考えると都合が良いかもしれません。

 なお、細胞培養中や標本観察の前には、細胞の運動性(形態変化:ライブ観察像・連続間欠撮影)を鑑賞・確認することも効果的です。その場合はすでに紹介した「ウェブ実験解説と原理」に付記した文字列「魚類細胞の顕微鏡像」を参照(クリック)。標本観察後は「動物生理・細胞生理の基本」の考え方を導入し、「細胞自身は何をしている?」という観点から、更に発展考察すれば教科書的な学習にもつながると考えています。また、補足的ですが、就学者の場合、文章日本語による様態表現(の練習)は大切な課題であることは言うまでにありません。

表8.1, 細胞標本観察の指針

培養条件:1.培養時間の差異(実験A)、2.細胞濃度の差異、3.接着基質の差異(実験B)

観察の指針:(1)実体あるものには(2)構造がある。構造とは (3)要素の (4)配置と その(5)つながりであり、その要素は段階的な(6)構造レベルに従った扱いを必要とする。

構 造 (の考察)

C. 繋がりの効果:区分・状態・結果

A要素

a.基盤
b.細胞
 (球状と扁平状)
c.その他

a.基質:ガラス、コラーゲン、メチルセルロース(血清アルブミン)
b.細胞:1.接着未伸展細胞(球状)、2.接着伸展細胞(扁平状)

B配置

a. 単離独立
:細胞が独立してバラバラに散在する。

単離独立しているため細胞の変化(伸展速度)が速い。

1. 円形/周辺円滑形(無軸放射状)、
2. 不定形(多軸放射状)

b. 近接隣接:複数の細胞が平面的に集まっている。

基質の開放域(未侵出域)へ仮足伸長がはじまり伸展する。コロニー状の隣接配列が形成される(伸展細胞による細胞シートの形成)

c. 上下配位(凝集塊):上に乗った細胞が含まれる。

凝集状態のため細胞の変化(伸展速度)は遅い。下層の細胞は伸展するが上に位置した細胞は基質との反応がないため球状を維持する。

d. 均等隣接
:実験B

接着基質に依存した単層細胞シート(形状)を形成する。

細胞の状態に関わる平易な表現
1.浮いた(浮遊)・沈んだ(沈下)、 2.見える(確認)・見えない、 3.粒・粒々、4.丸い(球状)・平たい(扁平)・広がった(伸展)、 5.張り付いた(接着/接着結合)、 6.散らばった(散在)・集まった(隣接・近接)・重なった(重層)、 7.多い(密度)・少ない、 8.濃く染まる(濃染)・薄く染まる(染色性が低い),

質問・作業
 上の表に記した「B.要素の配置:a-d」に基づき、細胞培養の初期(5分後)の細胞の状態(形)をそれぞれの配置に注意し想像し、簡単な絵にしてみましょう(上から見た図)。次に、要素のつながり(C.効果)から、同様に、培養30分後の細胞の状態を「構造図」としてイラスト画にしてくだい。
  なお、要素「細胞」は球状あるいは扁平(平たく広がった形で核・核小体を描く)としましょう。培養初期と後期の絵(構造図)になると思います。


CG培養細胞5分後
(低倍率&高倍率撮影)
CG培養細胞30分後
(低倍率&高倍率撮影)
細胞の形態観察は右文字列をクリック
魚類細胞の顕微鏡像(運動や形態変化)

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解説の前に

 顕微鏡操作が正しく行われているか(例えば、油性ペンの目印のエッジはクリアーに見えているか)を確認後に、実験A標本を低倍率で観察し、その後、その特徴的な部位の高倍率観察。実験Bの標本は実験Aの理解に基づき改めて観察することが効果的かもしれません。なお、就学者(初学者)の場合、観察の視点が濃染された物・部位に集中する傾向があるので、「構造」の観点から観察実体を適切に検鏡すること(の意味意義とその経験値が成り立つような配慮)はとても大切と考えています。

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<実験A標本の観察概要:指針>

経 緯: 液止めサークルに細胞液を滴下すると表面張力により凸状の山盛り液になり、その結果、細胞濃度は中心域から放射状に薄くなります。そのままCG面に沈下しその場所で細胞は接着・伸展します。なお、滴下した細胞浮遊液は完全に均一な単離分散状態とは限りません。単離した細胞と集合した細胞塊(集合塊)も含まれています。また、有効期限の初期・後期では細胞濃度が異なることも考慮の対象です。実験中の様子を思い出しながら標本を観察してください。その様子を表現してください。必要に応じて模式図(構造図)としてください。
命 題: 細胞をシャーレにいれたらどうなるか ・ 細胞を滴下培養したらどうなるか?

実験A. 培養5−10分の標本

低倍率観察の概要(平素な表現)

 カバーガラスは見えないが、ガラス表面に付着した染まったものが見える。その様子は、a.中央は青紫色が濃く、その周囲・外側は徐々に薄くなっている。あるいは、b.濃く染まった(濃染された)球形の粒々が多いところと少ないところが見える。c.ところどころに色は薄いが押しつぶされたように平たく見える(扁平な・伸展状態の)円形あるいは不定形のものも見える。または、d.粒々が集まった(集合した・凝集した)ところとバラバラに散らばった(散在する)ところがあるような気がする。
 幾つかのあるいは数多くの粒々(細胞)が塊(集合塊・凝集塊)の場所は、その多くが粒々の球状であるが、バラバラに散らばっている(分散・散在している)ところでは、その形は平らなペッシャンコ(扁平な伸展状態)が多いように見える(傾向を示している)。

低倍率観察の補足(専門的な観点)

 やはり「構造」の観点である。その要素には基質・基盤(CG)も含まれるが、観察される多様な形状は共通して培養細胞であり、球状と扁平状の2区分である。その配置は密集・隣接する場合と散らばった(散在した)状態、そのつながり(の効果)から(を反映し)、細胞は異なった形態(形状)を示している。
 つまり、)培養した細胞は自らガラス面(基質)を認識し接着結合するという事実が確認される(足場依存性)。)短時間培養(5-10分程度)の細胞はCGに接着直後であるため「球状」で固定染色され観察される(と予想する)が、短時間培養であっても次の理由から扁平な伸展細胞も出現する。つまり、細胞の元気の良さ(細胞活性の良し悪し)、培養温度の違い、さらに上澄みの捨て具合(残留)により扁平な伸展細胞の出現数は異なってくる(対照実験の必要性)。)凝集や隣接度が高いところ(高密度)の場合は細胞-細胞間連絡のため(干渉するため)、その伸展速度は遅くなり球状の傾向を示す。)単離分散した低密度の状態(場所)は細胞-基質(CG)間の反応のみが優先するため3)に比較し素早く伸展運動を開始し扁平な伸展細胞が数多く現れる(見られる)、である。

不測の事態

予想外のことは常にある。例えば目印などの他には何も見えないということもあり得るが、そこが肝腎要。例えば、MC/CGで実験Aを行った場合はそうなるであろう。しかし、実験とは「ともかく何かを確かめること・何が知りたい、確かめたい?」なので、その理由を考えるが実験の本意・ウェルカムであり、適切な対応と配慮が必要と考えます。

高倍率観察の概要

 以上の経緯をもとに低倍率観察から特定した特徴的な部位(a.散在状態の細胞、b.集合状態の細胞、c.細胞どうしが上下に重なった状態)を再確認(高倍率観察)すると、)多様な様態もその要素は基本的には球状と伸展した細胞の2区分であり、)伸展細胞では核なども明瞭に観察できるが、球状細胞は濃染状態でありその識別はできない。)どちらの細胞でもその幾つかには細胞表面にトゲのようもの(糸状仮足)も見られるはずであり、この気づきに基づき、)構造レベルの観点(観察の基本)を思い出すと「細胞」下位の「細胞小器官」も見えるはず、に至る。
 なお、低倍観察は構造レベル(階層性区分)で「組織:細胞シート(上皮組織)」にあたるが、その考察には下記(実験A,Bの高倍率観察)も必要である。
 以上の見解を更に丁寧に確認するため、高倍率観察では「15-30分培養」の標本観察を進めるが得策である。

実験A. 培養15−30分の標本(高倍率観察)

    1. 基本情報: 30分程度培養した標本では、短時間標本に比べその多くが扁平状であり、伸展状態も更に薄い広がりを見せた細胞に変化している。伸展細胞の上に位置した細胞や細胞同士が密接に集まったところでは短時間培養と同様に濃染された球状細胞が観察されるが、個々の細胞の形態(構造)は高倍率のためかなり明瞭に観察されている

    2. 伸展細胞の形態: 接着班の形成状況を反映し多軸放射状(円形あるいは不定形)を示す。その固定染色後のFHLS細胞は、細胞質内に液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、その糸状仮足や葉状仮足、細胞接着部の様子(接着斑)などの構造(要素)が観察される(その他の小器官を識別することは通常の高倍率では困難である)。この場合の細胞骨格は接着班を基部として伸長したアクチン線維であり、仮足とは染色性が低い細胞の偏縁域であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展・伸長した細胞膜と細胞骨格により構成され、その動き(波うち運動)により細胞は移動を可能とする。丁寧に観察するとかなり広がった状態であることが確認できる。なお、接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期や接着基質(ガラス面)と接触がなかった細胞は球状のまま濃染され観察される(細胞運動の開始シグナルがないため動けない)、という観察に至るはず。なお、細胞膜に比較し核膜が濃染されることも特徴的である。また、ひとつの細胞体に複数の核が存在する場合もあるが、それらは細胞同士が融合した多核細胞であり、生体では横紋筋細胞(長軸伸長の多核巨細胞)の例などである。

    3. 密度の観点: 重層することなく適当な隣接密度の観察部位では、それぞれの伸展細胞の集合域は小さなコロニー状(細胞シート)を呈している(ことが分かるはず)。更に、そのそれぞれの仮足部分は重なることなく、細胞体は敷石を敷き詰めたような配列になることも特徴的である。なお、伸展細胞の上に重なった細胞は球状であり、伸展細胞の形で上下に重なっている状態(重層状態)を見ることはない。

    4. まとめ: 「細胞を滴下培養したらどうなるか?:命題」に対する見解。
       細胞は細胞周囲の培養条件(要素)を認識・反応し、自律的に接着・伸展し、30分程度の短時間の培養でも活発な細胞運動を示した。つまり、接着・伸展・移動・配列した。その特徴的な様態は、細胞集団が扁平上皮組織のような「単層の細胞シートの形成」を示したことである。その原理(仕組み)は、細胞の基本的性質「足場依存性と細胞シートの形成」に基づくと考えられる。実施したCG培養実験はすなわち「細胞の基本的性質」の実証実験であった。細胞シートの意味意義については実験Bの考察やウェブ「解説・原理」の参照に基づき展開が可能である。

    5. 補足1: 観察における「気づき」は考察の前提「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という平素な疑問に基づくものであり、その仕組みの考察には「動物生理・細胞生理の基本」の受容・伝達・実施であり、また、吸収・運搬・排出、という「2系6要素」で対応させることも可能であろう。

    6. 補足2: つまり、複雑なことでも平素な視点を大切に「考える基本」に従えば、進む道筋は大きく振れることなく詳細へ前進するという経験値を与える。それらは教科書や話し合い(協議)で補完されるであろう。つまり、「実体と概念の連立連携」の道筋(プロセス)と経験値を得るには生物学習が特に秀でている(かも)という事例である。

<高倍率観察の要約>

個々の細胞は、可視的な要素「接着斑」を起点に形成された細胞骨格とその効果「仮足の広がり」に従った形になる。仮足域で囲まれた染色性の高い内部(細胞質)には各種の「小器官」が配置する(確認できないものも多い)。高倍率「扁平伸展細胞」には何種類の要素が観察できるか? その様態を構造図(細胞構造)として描いてみよう。
 なお、お絵描き実験では細胞密度と接着基質と細胞の基本的性質により特徴的な敷石を敷き詰めたような切れ目のない細胞シートが形成される。ゼラチン域辺縁(エッジ)に位置した細胞体はその境界線に沿った形に変化する(を示す)。ウェブ資料を参照。

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<実験B(OEKAKI)の標本の観察概要:指針>

経 緯: メチルセルロース(MC)処理済みのカバーガラス(CG)にゼラチンで任意の絵文字を描き、細胞液を滴下し60分以上の培養を行った。その標本観察は、既述の実験A「観察概要・指針」、また個別の考察を前提とするが、実際に想定される観察状況は下記であろう。
 その目的は、細胞の基本的な性質「足場依存性と細胞シートの形成」の再確認であり、動物体の成り立ち(構造性と階層性)を細胞レベルから確認すること。それらに基づく「生体組織と培養細胞との類似性」の考察への糸口をつかむことである。つまり、実体観察に基づく「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という平素な疑問を大切にすることが高度な考察レベルへの近道・筋道であることを確認するためである。
 なお、ウェブ資料「実験解説と原理」に掲載したバーチャル顕微鏡像(#2標本)を用い、その観察状態の共有と再確認は実験学習の場において有効と考えます。
    1. 肉眼や低倍率で観察するとともかく染色された任意の絵文字が見えるはず。その理由(仕組み)は、工程1で用いた材料の意味意義であり、ゼラチン(コラーゲン)は細胞の接着基質であり、メチルセルロース(MC:血清アルブミンの代用品)は細胞の接着阻害を示す物質であるため。更に、細胞はその基本的性質に従い自律的な運動・活動を行ったためである。

    2. なお、予想通りに明瞭な絵文字が現れない理由は、培養時間が短い、細胞活性が低い、細胞濃度がすくない、ゼラチンの乾燥不十分や厚塗り、が考えられる。細胞シート上の球状細胞がかなり多い場合は、再浮遊時の分散処理(Step2の5)が不十分、あるいは固定前の紙ナプキン上で物理的なショック(Step4の1を参照)が不十分な場合が考えられる。補足:この経緯から固定前に細胞面にリン酸緩衝食塩水(PBS-:Caフリー)を滴下・洗浄により弱い接着の球状細胞を除くことも有効である。

    3. 高倍率で絵文字の境界を観察すると、細胞はゼラチン塗抹(基質)域にのみ接着伸展し扁平細胞として確認される。本実験では高濃度(底面重点密度)の細胞液を用いたため、細胞は緻密な隣接配置であり、隙間なく敷石を敷き詰めたように配置・配列している。つまり、細胞シートを形成している。仮足は緻密な配列状態のためほとんど確認できない。単層の細胞シートの上には球状細胞も観察される。

    4. メチルセルロース処理域には伸展細胞はほとんどない。その基質に沈下した細胞は固定染色の工程のときに洗い流されたと考えられる。しかし、接着したまま伸展できない球状細胞もところどころに散見される。

    5. 補足1: この標本観察を行うと、どんな仕組みで「形」が現れたのか、細胞はどのような性質を持っているのか、といった疑問が生じるが、「染色液で染まったものは何?」という平素な疑問も大切である。次セット(W)の図4.6を参照。この考察を正しく行うには対照実験を正しく計画し実施する必要があるが、短絡的には細胞がその答えである。しかし、生体由来物質のゼラチンは染色されないの?という平素な疑問や質問も大切である。その解答「薄膜として塗抹されたゼラチンはほとんど染まらない」であるが、板ゼラチンを水で膨化させた後にCVを滴下すれば確かに染色されることも事実である。

    6. 補足2: 実験B(お絵描き実験)の主要な目的は「生体組織との類似性の考察」にあるが、これに対する解説はすでに「サイト:実験学習「細胞培養実験」の受講者へ:解説と原理」に記載したのでここでは省略する。

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<9. 終わりに:まとめ>

 細胞実験やその顕微鏡観察像について解説してきました。結果的にその解説「培養細胞が生きる仕組み」は、生体との類似性の説明となってしまいましたが、多分、異論はないと思いますが、とても面倒な話と思った人もいるのでは思っています。
 しかし、細胞培養実験について考えること、自発的な疑問点を大切にすることは、生物学・生命科学そのものを学ぶことに繋がっていたということには同意してくれるのではないでしょうか。実体に基づき「なに・なぜ・どうして・どのようにして・それ本当?」と気軽に思うこと・大切することはとても重要です。つまり、実体と概念の連立連携こそが生物学習ではないかと思っています。基本(Basic)を理解することも大切な学習のはずです。
 つまり、以上のことは「基本的なロジックの学習:誰もが認める知っててお得な考え方の学習」でした。なお、下記は本章のまとめ「概要一覧」です。
 最後に、この解説を参照しどうしても気になること「疑問」などがあれば、担当の先生を通じて質問してください。できるだけ回答するように心がけます。 

2 2 2
画像クリックで拡大表示:左 Fig.37  中 Fig.38  右 Fig.39
上図の38, 39については
学習マトリックス」を参照
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<終わりの付録:本編の概要一覧>

    1. 「培養細胞」とは、生体組織から摘出されシャーレなどで人為的に維持管理される細胞のこと。繰り返し操作を加え継代培養が可能な細胞は「株化細胞」と呼ばれる。

    2. 「細胞培養」とは、生体組織の細胞が生きるその存在様式(微小環境)を人為的にシャーレなどに再現すること。 ほぼ同義で「組織培養」というイメージも重要。

    3. 膜系構造体の動物細胞の基本的な性質は「足場依存性」であり、「細胞シートの形成」を基本とする。 細胞シートは上皮組織と同義、細胞培養技術では大昔から「モノレイヤーセル」と呼ばれている。

    4. 一般的な動物細胞は、培養容器(培養フラスコなど)に「3層構造」として維持管理される。つまり「固層、液層、気層」を必要とする。 同義で「固相・液相・気相」なら誰もが理解する状態表現である。

    5. 「固相」とは、細胞が接着基質とする容器底面であり、生体においては基底膜や細胞外マトリックス(ECM)などに相当する。

    6. その接着細胞を覆う「液層」とは「培養液・培地」であり、いわゆる生体基本分子(無機塩、糖、アミノ酸、ビタミン、血清、あるいは細胞増殖因子・ホルモン)の混合液、つまり、生体物質代謝の成分に相当する。

    7. 「気相」とは培養容器の液層上部に位置する空気層であり、気相-液層-細胞層としてガス交換、つまり「内呼吸・エネルギー変換」などに関与する。

    8. つまり、培養細胞が生きるに必要な基本条件とは「接着基質、基礎培地、必須添加物(増殖因子やホルモンなど)」の3要素の充足であり、その他として「培養温度、無菌性、pH維持、細胞の継代維持」などを必要とする(細胞培養3要素+α)。

    9. 培養細胞は培養を開始すると、容器底面(接着基質)上で、接着・伸展、移動・配列、分裂・増殖、接触阻害などの基本現象を示し、多くの培養細胞は「単層細胞シート:上皮様形態」を形成する。必要に応じて機能分化の様態に変換することも可能である。

    10. 培養細胞の振る舞いは分子レベルのシグナル伝達(情報伝達)の結果である。

    11. 細胞培養実験とその経過・結果は生体組織細胞との類似性から考察すべき対象となる。

    12. 上述から俯瞰する細胞培養技術とは、いわゆる「動物代替実験系」であると同時に、その構成要素・様態の詳細は、「細胞の分子生物学」に関わる状況・現象そのものである。

    13. よって、世界的な教科書「細胞の分子生物学:Molecular Biology of The Cell」の参照は不可欠である。

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<考察のポイント;キーワードなど>

1)細胞の基本的な性質、 2)細胞の形態と変化、 3)足場依存性、 4)細胞外マトリックス/ECM、 5)細胞の接着伸展(細胞結合と運動)、 6)細胞骨格、 7)細胞シートの形成、 8)細胞増殖因子、 9)シグナル伝達、 10)分裂増殖、 11)接触阻害、 12)ガン化、 13)培養細胞と生体組織細胞との類似性、 14)培養細胞が生きる仕組み、 15)細胞培養技術、 16)細胞培養3要素+α 17)生きているとは?(時間とは?)、

培養細胞実験の基礎知識
 :イメージの意味するところ

1) 培養細胞は生きている
 生体との類似性から考察する。「培養細胞」とは人為的に維持管理される生体由来の細胞のこと。「細胞培養」とは生体の組織細胞が存在する様態/微小環境を容器に作出すること。

2) 容器の中で生きている
 外部環境/条件の充足に基づき生きている。つまり、細胞培養3要素+α:接着基質、基礎培地、必須添加物、その他(温度、pH、無菌性、ガス環境、継代操作)、である。

3) 底に張り付き生きている
 多くの細胞は「足場依存性」であり、細胞外マトリックス(ECM)とインテグリンが結合し接着する。Caイオンはその結合を構造的に安定化させる。

4) 形を変えつつ生きている
 足場/接着部位(接着斑)の形成に基づき、そのシグナルは細胞骨格の形成(特にアクチン繊維)へと働く。細胞偏縁部の糸状仮足や葉状仮足の伸張(アクチン繊維の伸張)により扁平な形態を示す。更に隣接細胞の方向や未進出領域へ移動する(走行性を示す)。

5) 自律・協調・戦略的に生きている
 培養3要素+αが充足した環境にある培養細胞は、分裂増殖、移動配列を繰り返し、隣接細胞と協調的に単層の細胞シートを形成する。その視点/終点は細胞増殖の接触阻害(Contact Inhibition)に求める。

6) 細胞社会で生きている
 細胞は基本単位であり生物進化の成果物である。培養細胞においても、その基本的な性質(シグナル発現の様態)に基づく集合体の形態は、結果として、点としての接着細胞、面としてのシート状細胞(細胞シート)、立体としての嚢胞状細胞シート、へと繋がる。組織化の論理性を示す。

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<10. 本編に関連する参考書>

  1. 細胞の分子生物学(4版) 中村佳子ら 監訳(2004)ALBERTS B. et al、Newton Press ¥22000 (ISBN4-315-51730-5)

  2. 分子細胞生物学(上・下)第4版(2001) H. Lodish, ら(野田春彦他 訳)、東京化学同人、(ISBN4-8079-0464-7),

  3. 分子生物学講義中継-@,A,B(2002) 井出利憲、羊土社 (ISBN4-89706-280-2)、各¥4000程度

  4. イラスト生化学・分子生物学(2004) 前川正夫ら、羊土社,¥3800, (ISBN4-89706-371-X),

  5. わかる実験医学シリーズ(羊土社) 各¥3900.: 「サイトカインがわかる」、「受容体がわかる」、「細胞骨格・運動がわかる」、「細胞周期がわかる」、

  6. Culture of Animal cells: A Manual of basic Technique, R.Iran Freshney, WILEY-LISS (ISBN 0-471-60236-1)

  7. 培養細胞実験ハンドブック(実験医学別冊:2004) 羊土社、¥7000 (ISBN4-89706-884-3)

  8. すくすく育て培養細胞(細胞工学 別冊):バイオ実験イラストレッド、渡辺利、秀潤社(1996)

  9. 細胞増殖のしくみ(1989) 井出利憲 未来の生物科学シリーズ18:共立出版(株) ¥1000 (ISBN4-320-05342-7)

  10. 生体の窒素の旅(1991) 森正敬 未来の生物科学シリーズ:共立出版(株) ¥1380 (ISBN4-320-05348-6)

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<付 録>

付録1:培地成分表

イーグルの最小必須培地
 MEM:Eagle’s Minimum Essential Medium

 無機塩・・  6種類、  糖類 ・・ 1種類
 アミノ酸・・14種類、 
 ビタミン類など・・・ 9種類
 その他1・・ 4種類、 
 その他2 ・・ pH指示薬と抗生物質
無機塩:6種類>  mg/L  mM
1 塩化ナトリウム 6800 116.35
2 塩化カルシウム 200 1.80
3 硫酸マグネシウム 200 0.81
4 塩化カリウム 400 5.37
5 重炭酸ナトリウム 2200 26.19
6 リン酸水素Na 140   1.01
糖類:1種類>  mg/L  mM
1 グルコース 1000 5.55
アミノ酸:14種類>  mg/L  mM
1 バリン 47 0.40
2 ロイシン 52 0.40
3 イソロイシン 52 0.40
4 トレオニン 48 0.40
5 システイン 32 0.18
6 シスチン 24 0.10
7 メチオニン 15 0.10
8 グルタミン 292 2.0
9 リジン 73 0.40
10 アルギニン 126 0.60
11 ヒスチジン 42 0.20
12 フェニルアラニン 33 0.20
13 チロシン 36 0.20
14 トリプトファン 10 0.05
ビタミン類など
 :9種類>
 mg/L  nM
1 ビオチン 0.02  0.08
2 塩化コリン 1.0 7.16
3 葉酸 1.0 2.27
4 イノシトール 2.0 11.10
5 ニコチンアミド 1.0 8.19
6 パントテン酸(Ca) 1.0 2.10
7 ピリドキシン 1.0 4.91
8 リボフラビン 0.1   0.27
9 チアミン 1.0 2.96
その他-1 >  mg/L  mM
1 コハク酸 75 0.64
2 コハク酸Na  100 0.37
その他-2>  mg/L  mM
1 フェノールレッド
(pH指示薬)
6.0 0.02
2 カナマイシン
(抗生物質) 
60  

 

・高圧滅菌やGSフィルターで滅菌で無菌性 、・4℃密封保存

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付録2:主な細胞外マトリックスの構成成分

    1. 構造タンパク質: コラーゲン(ゼラチン)、エラスチン
    2. グリコサミノグリカン:ヒアルロン酸, コンドロイチン硫酸, デルマタン硫酸,
    3. 細胞接着因子:フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど
    4. 合成接着因子 :親水化加工(プラズマ処理)のポリスチレンなど, RDGペプチド、poly-L-リジン

付録3.
 牛胎仔血清 (Fetal Bovine Serum:FBS)の成分

Osmolarity (353.0 mosmol.)、
Total protein (5.0g/dl),
K+ (9.7meq/L),  Na+ (108.0meq/L),

Cl- (142.0meq/L),  PO42- (9.2meq/L), Ca2+(13.9meq/L),  Glucose (318.0mg/dl)

BUN(15.9mg/dl),  Uric acid (4.8mg/dl), Creatinine (2.4mg/dl),
Total bilirubin (0.2mg/dl),

Cholesterol (75.0mg/dl),  
Albumin (1.6g/dl),  
ALK phosphatase (146.0mU/ml),

CPK(187.0mU/ml), LDH (437.0mU/ml), SGOT (45.0mU/ml),
T4 (7.8μg/ml)、

Total cortisol (9.6μg/ml),  
Free cortisol (1.3μg/ml),
Corticosterone (0.4μg/ml),

Testosterone(53.0ng/dl)、
Insulin (10.1μU/ml),  
Total glucagon (286.0pg/ml)、

Pancreatic glucagon (97.0pg/ml),  
ACTH (14.9pg/ml)、 
TSH (1.1μIU/ml),  GH (87.0ng/ml),

FSH (1.6mIU/ml)、 LH (1.8mIU/ml), Prolactin (27.7ng/ml),
Fibronectin (0.03mg/ml),

その他(細胞増殖因子)
:EGF,  PDGF,  IGF-1, etc

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Osmolarity (浸透圧) ・・ 353.0 mOsmol
Total protein (総タンパク量) ・・ 5.0g/dl
K+ (カリウム イオン) ・・・ 9.7meq/L
Na+ (ナトリウム イオン) ・・・ 108.0meq/L
Cl- (塩素イオン) ・・・ 142.0meq/L
PO42- (リン酸 イオン) ・・・ 9.2meq/L
Ca2+ (カルシウム イオン) ・・・ 13.9meq/L
Glucose (グルコース) ・・・ 318.0mg/dl
BUN (血液尿素窒素Blood urea nitrogen) ・・・ 15.9mg/dl
Uric acid (尿酸) ・・・ 4.8mg/dl
Creatinine (クレアチニン) ・・・ 2.4mg/dl
Total bilirubin (総ビリルビン) ・0.2mg/dl
Cholesterol (コレステロール)・ 75.0mg/dl
Albumin (アルブミン) ・・・ 1.6g/dl
ALK phosphatase (アルカリホスファターゼ
 Alkaline Phosphatase) ・・ 146.0mU/ml
CPK (クレアチンホスホキナーゼ
 Creatine PhosphoKinase)・ 187.0mU/ml
LDH (乳酸脱水素酵素lactate dehydrogenase)
・・・ 437.0mU/ml
SGOT (血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)
 Serum Glutamic Oxaloacetic Transaminase) ・・・ 45.0mU/ml
T4 (サイロキシン Thyroxin) 7.8μg/ml
Total cortisol (総コルチゾール)9.6μg/ml
Free cortisol(遊離コルチゾール) 1.3μg/ml
Corticosterone (コルチコステロン)
・・・0.4μg/ml
Testosterone (テストステロン)
・・・ 53.0ng/dl
Insulin (インシュリン)
・・・ 10.1μU/ml
Total glucagon (総グルカゴン)
・・・ 286.0pg/ml
Pancreatic glucagon (膵グルカゴン)
・・・ 97.0pg/ml
ACTH (副腎皮質刺激ホルモン
 adrenocorticotropic hormone)
・・・ 14.9pg/ml
TSH (甲状腺刺激ホルモン
 thyroid stimulating hormone)
・・・ 1.1μIU/ml
GH (成長ホルモン Growth Hormone)
・・・ 87.0ng/ml
FSH (濾胞刺激ホルモン Follicle Stimulating Hormone) ・・・ 1.6mIU/ml
LH (黄体刺激ホルモン Lutenizing Hormone)
・・・ 1.8mIU/ml
Prolactin (プロラクチン)
・・・ 27.7ng/ml
Fibronectin (フィブロネクチン)
・・・ 0.03mg/ml
EGF
(上皮成長因子Epidermal Growth Factor)
 ・・・ (微量)
PDGF
(血小板由来成長因子 Platelet-Derived Growth Factor)
 ・・・ (微量)
IGF-1
(インスリン様成長因子 Insulin-like growth factor)
 ・・・ (微量)、

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<終わりのメッセージ>

知らないことは分からない。 
 分かってしまえば当たり前。

何かが気になる当たり前。 
 気になることはどうしよう。

気になることは無視しよう。 
 気になることは大切にしよう。

さて君はどうしよう。 
 なに・なぜ・どうして・どのようにして。

きっと共有命題が助けてくれる。 
 生きているからそう思いたい。

きっと経験値が窓を開くはず。

・・・・・・・・

これを見せたい・教えたい
 ・考えさせて・楽しくしたい
 「なに・なぜ・どうして・どのようにして」
   どんな疑問に答えよう。
ともかく体の成り立ちだ!
1) 体の中身はどう描くの?
 2) 体の薄切り2色で染めたらどうなるの?
  3) シャーレの中のサカナの細胞、
    どんな姿で生きてる?
    4) 生理食塩水はなぜ必要?、
     等張液って何だろう?
・体は細胞からできている。
  細胞間物質でできている。
・11区分でできている。
  2つの区分で6要素。
・4大組織に3胚葉、
  器官・組織に、細胞・物質。
・姿の由来は胚葉性と咽頭胚。
・色々いるけど多様性に統一性。
1) 大きく見れば管状構造(器官系)
 2) 平たくみれば層状構造(組織)
  3) そこだけみれば単位構造(細胞)
   4) 見えないものは循環構造(物質)
止まらないから生きている。
 外部の環境、無視できない。
 ・ポンプが動けば塩水動く。
  ・濃度差・移動・等張状態(膜電位)
   ・形を支える物質代謝
生物と云えば「形・役割・仕組みに由来」、
とにもかくにも実験しよう!
実験とはともかく何かを確かめること・貴方は何が知りたい確かめたい?

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本編の記述は以上で終わりです。

*下図は関連資料です。

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画像クリックで拡大表示:左 Fig.40  中 Fig.41  右 Fig.42
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.43  中 Fig.44  右 Fig.45
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.46  中 Fig.47  右 Fig.48 
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.49  中 Fig.50  右 Fig.51
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.52  中 Fig.53  右 Fig.54
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.55  中 Fig.56  右 Fig.57
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画像クリックで拡大表示:左 Fig.58  中 Fig.59  右 Fig.60
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.このシートの最下行です
 :ともかく、ありがとう。はそべまさひで