・・ このシートは「テキスト形式」:別様は図一覧形式」と「スライド形式 ・・

<Set2:動物細胞標本の見方・考え方・進め方>
「構造」に基づく観察標本の評価法・表現法

観察という行為はどのように枠組みにあるか?
シオリ式(ラミネート加工)細胞染色標本の顕微鏡観察:目次

本編の背景と必要性については <生物学習内容構成原論> へ:左文字列をクリック
ここの目次へ、細胞実験学習の受講者へ:解説と原理 へ:2018生物学へ組織学へ>

* 本編「考える生物学:細胞実験に基づく生物学」は下記「Set 1〜6」に基づき実施される。
* Set-TopとSet 1では、演習講義の概要を扱う。Set2ーSet5は細胞実験の実施要領である。
* 下パネル「話題集1〜6」は、細胞実験学習に基づく動物体の成り立ちに関わる話題(命題)。

Set-Top Set1 Set2:ココ Set3 Set4 Set5 Set6
本編の
目次

(下記)
本演習の
主な実施
課題と話題
シオリ式
細胞標本観察
:構造と観察
細胞培養実験
 (材料と方法)
細胞実験
 の意味意義
 :12問
細胞実験
:実施要領
:請求方法
配布資料
テキスト
ワークシート
Set-Topへは
クリックで移動
Set1へは
クリックで移動
このシート
この目次
Set3へは
クリックで移動
Set4へは
クリックで移動
Set5へは
クリックで移動
Set6へは
クリックで移動
講義配布テキストと その講義スライド簡易細胞実験マニュアルワークシートPDF
関連資料:生物学習内容構成論細胞実験学習の受講者へ:解説と原理
体の中身の描き方、 動物生理、 細胞生理、 BioMTX
 、バーチャル顕微鏡観察組織学自主トレ

先頭行へ移動


動物細胞標本の見方・考え方・進め方
  「構造」に基づく観察標本の評価法・表現法

シオリ式(ラミネート加工)細胞染色標本の顕微鏡観察 >

目次:1.観察方法、2.式次第、3.構造に基づく観察の指針/表現方法/表:構造と観察
   4.観察状況の事例、染色細胞の高倍率観察像

<はじめに〔Set 2〕

2 2 2
上図がシオリ式細胞染色標本セットの台紙付き標本:3種類の標本が貼り付けされている。#3標本は無染色なので透明に見える。Fig13の右図は魚類マクロ組織のイメージ。
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.13   中 Fig.14   右 Fig.15 )

 このセットでは細胞染色標本の観察を行います。Fig.13,14,15 はその細胞標本のイメージですが、手元にある標本セットを開き(イメージはFig.13)、実際にその細胞標本の状態を確認してください。その上で、下記「標本観察と考察の方法」に従い顕微鏡観察を行います。また、丁寧なグループ協議や記録を行ってください。
 繰り返しになりますが、実験や観察とは「ともかく何かを確かめること:何が知りたい・確かめたい?」です。本セットUの標語は「疑問は大切に」。自分自身を信じ、あるがままに受け止め、表現してみてください。
 なお、次のセットVでは、実際に生きているその魚類細胞FHLSを用い、下図のような観察標本の再現実験(細胞培養実験)を行います。例えば、時間経過に伴う細胞の運動性などを確認します。そのため、本セットの課題を通じ「何が知りたい・確かめたい?」という動機を作ってください。

2 2 2
(画像クリックで拡大表示: 左 Fig.0   中 Fig.00   右 Fig.000) 
先頭行へ移動


<1. 細胞標本の顕微鏡観察:その方法>

標本観察の手順
 細胞染色標本(セット)に付属のリーフレットを取り出し(または次頁を参照)、初めに「A面」を通読してください。疑問などがあれば遠慮なく質問あるいはグループ協議を行ってください。 次に、「B面」に従い観察・考察・協議・記録を進めてください。なお、セットTの場合と同様に、観察の対象は実体であり「構造」があります。構造レベルも関係します。観察状況を表現する時はこの構造という観点を念頭に進めてください。
 なお、次頁の観察様式が終了した後は、各自の要約として、下記欄(罫線)に、標本観察を通じて重要と思ったことなど列記(記録)しておきましょう。特に「細胞の基本的な性質」とはどのようなことであったでしょうか?

 


 次のセットVでは本セットの観察結果の実証試験、つまり、細胞培養実験を行います。「確かめたいこと」を実際に検証し、疑問の解消に努めます。そのため、グループ協議を行い「何を確かめるか」について、この場で、その重要性から、その方針を具体的にしてください。実施実験の方法が必要な場合はこの場で質問し確認してください。
補足:右のQRコードは本セットを更に詳細に学習・理解する場合に必要な解説(サイト)です。
次セット(細胞実験)の方針(どの要素について何を確かめたいですか?)

先頭行へ移動


<2. シオリ式細胞染色標本の観察と協議:式次第>

事前に細胞像(顕微鏡撮影像)をウェブサイトで参照し、その後、この課題に取り組むも良い方策です。その場合は右下QRコードでサイトに移動し、文字列「魚類細胞の顕微鏡像:運動や形態変化」をクリックで参照してください。


-- A --
<動物細胞の染色標本:顕微鏡観察用>
細胞は魚類 ファットヘッドミノー 由来のFHLS細胞 (株化細胞FHMを起源とした無血清浮遊培養系細胞)
・ ・ ・ ・  ・ 
<標本の基本情報> 
 細胞液をカバーガラスに滴下すると細胞は下記#1, 2, 3の実験条件に従い自律的に細胞運動を行い、形態を変化させます (接着し伸展します)。標本#1,#2の染色液は青紫色のクリスタルバイオレットを用いています。
標本#1.  組織形成・形態形成に関する基礎実験(通称:お絵描き実験):透明なコラーゲンでガラス表面に図柄を描き乾燥させ、次に血清アルブミンを滴下し全面を濡らし、その後、細胞液を滴下し、28℃/90分で培養した固定染色済みの細胞標本。
標本#2. 単純培養標本 :カバーガラス表面を2分割し、細胞液を滴下、28℃で培養。5分と30分後に固定染色した細胞染色標本。左右条件が混在した標本もあるので要注意。
標本#3. 未染色標本:30分単純培養した固定標本.

<標本観察の予備知識>

 穴付き面が対物レンズ側です。スライドガラスなどにテープで仮止めして使用します。 #3標本(未染色)はカバーガラス表面に付けた油性ペン(目印)で焦点を合わせ、シボリ操作で観察に努めます。なお、培養域外縁は液止めワセリン処理がなされているため穴周囲や#2標本の分割域にはモヤとしたワセリンが観察されます。

<標本観察の手順>

 低倍率観察で細胞の所在や密度の違いを把握しましょう。標本の全体像の理解です。 次に、高倍率で細胞そのものの形態や構造の観察を行いましょう。
 構造とは「要素の配置とその繋がり」なので観察域の詳細を考察してみましょう。なお、構造は階層性(構造レベル)に応じて考察が可能です。必要に応じて図説集なども参照します。
 細胞の隣接状態・分散状態にも注意して下さい。観察像や細胞形態は培養条件に従い幾つかのパターンになるはずです。
 模式図を描く時は「要素の配置とその繋がり」を意識しましょう。また、簡単な解説を作成し要約してみましょう。 以上に基づき「細胞の基本的な性質とは何か」を考えてください。

-- B面 --
<細胞実験学習の課題
実験 (観察) とはともかく何かを確かめること。貴方は何が知りたい・確かめたい?
・ ・ ・ ・ ・ ・ 
課題1st.魚類細胞を培養した標本を観察する(以下の3つの標本を顕微鏡で観察する。)

  • 標本#3:染色されていない細胞像。
  • 標本#2:左右で培養時間が異なる染色細胞像。
  • 標本#1:お絵描き実験の標本:染色された図柄のある標本)。詳細はA面「標本情報」を参照。

課題2nd.疑問を考える(次のルールに従う)

  • 標本番号や倍率などを併記しながら、疑問に思ったことをそのまま「欄1」に書き出す(箇条書き)。但し、協議・評価などの会話は行わない。
  • できるだけ多くの疑問を作る(記入する)。
  • 肯定文は疑問文に変換する。できるだけ主語を用いて具体的に作文する。
  • 疑問には優先順位を与え「欄」に記入する。

課題3rd.グループで重要な疑問を協議する。
 各自の疑問を優先順位に沿って複数読み上げグループメンバーに伝える。同時にメンバーが分かりやすい疑問文となるように修正を加え、改めて「欄2」に記入する。
 全員の疑問を確認した後、それぞれについて話し合う。その経過で解決したい重要な疑問を選び出し、グループの意見(疑問)として「欄3」に明瞭な疑問文として記述する。必要に応じて簡単な作図を加える。

課題
4th(必要に応じて)全体で協議する。
1)「欄3」の疑問を受講者全員に公表し、その対策や解決の道筋に向け、協議しながら助言を求める。
2)その上で研究者に質問したい疑問を「欄4」にまとめる。
また、
3)各自の記述欄を参照し自己評価(大事だと思ったこと、新たな疑問、納得、モヤモヤの事項)を「欄5」に記入する。
・ ・ ・  ・ ・ 
細胞実験の解説や原理は、Webサイトによる参照も可能です 
 

なに・なぜ・どうして・どのようにして・それ本当?

先頭行へ移動


<3. 解説:細胞標本の観察指針:視点・観点・その表現>

 ここでは、固定染色後の細胞標本を観察するとどのように見えるかという観点から解説します。受講者との質疑応答の時のヒントになればというつもりです。その視座・視点は「構造」。つまり、実体あるものには構造がある。構造とは「要素配置とそのつながり」であり、その要素は構造レベル(階層性)に従い段階的な考察を必要とする、です。なお、要素と要素がつながるとそこには何かしらの状況や効果が示されると考えます。この指針に沿った細胞標本観察の事例を下記の表2.1としました。
 つまり、標本観察とはこの「構造」という観点から見たままに表現すること(でもある)です。このことがどの程度有効であるか、その例題は下表の質問(作業)に例題として記しました。試してみてください。なお、上記に加え、要素の役割は「動物生理・細胞生理の基本:2系6要素」に基づく考察である、ということも発展的には関連すると思っています。いずれにして生物学習の理念「実体と概念の連立連携」が目的です。
 観察のはじめは、平素な様態表現(丸い・平たい、粒・粒々、散らばった・集まった・重なった、多い・少ない、濃い・薄い、など)で扱い、専門用語の扱いは、その様態要素に対する「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という考察の経緯から補完として用いることも妥当と考えています。なお、専門用語とは最小努力の最大効果を期待したものと考えると都合が良いかもしれません。

先頭行へ移動


表2.1. 細胞標本観察の指針 (実体と構造の関係について:下記の質問を参照)

培養条件の違いは
 :1.培養時間の差異(実験A)、 2.細胞濃度の差異、
   3.接着基質の差異(実験B)

観察の指針
 構造の観点から標本を観察し、そのような要素があるか、どうのように配置しているか、その繋がりからどのような状態を示しているか?(どうのような要素はどのような状態になっているか?)を考える。下表に従いその表記法や表現方法を考える。平易な表現で構わない。専門用語は最終的に用いる。
  それらに基づき幾つかの構造配置図(模式図)を作ってみる。また階層構造レベルの違いを意識すると同様な評価が可能となる。
 なお、人は一度に全てを評価はできない。段階的であり、「見る・観察する」とは分析であり、分析とは「構造評価」である。観察も「実験」であり「何が知りたい・確かめたい」という経緯にあるので、やはり、失敗という状況はないので、繰り返し、丁寧な分析「気づき」を話し合いの中で大切にする(表現すること)。実験に失敗はないよ・段階的な取り組みだよ。

実体あるものには (1)構造がある。構造とは、(2)要素(3)配置とその (4)つながりであり、その要素は段階的な (5)構造レベルに従った扱いを必要とする。

造 (の考察)

C.繋がり:効果・区分・状態・結果

A.
要素

a.基質
b.細胞
c.その他

a.基質:ガラス、コラーゲン、メチルセルロース or BSA
b.細胞:1.接着未伸展(球状)、2.接着伸展(扁平状
c. その他のゴミやアーティファクト、染色の濃淡、

B.
配置

a.単離独立:細胞が独立してバラバラに散在する

単離独立しているため伸展速度が速い。
 1.円形:無軸放射状、2.不定形?:多軸放射状、

b.近接隣接
:複数の細胞が平面的に集まっている。

基質の開放域(未侵出域)へ仮足伸長がはじまり伸展する。従って、コロニー状の隣接配列が形成される(伸展細胞による細胞シートの形成)

c.上下配位(凝集塊)
:上に乗ったままの細胞が含まれる。

凝集状態のため伸展速度は遅い。下層の細胞は伸展するが上に位置した細胞は基質との反応がないため球状を維持する。

d.均等隣接:実験B

接着基質に依存した単層細胞シート(形状)を形成。

細胞の状態に関わる平易な表現

1. 浮いた(浮遊)・沈んだ(沈下)、2. 見える(確認)・見えない、3. 粒・粒々、4. 丸い(球状)・平たい(扁平)・広がった(伸展)、5. 張り付いた(接着/接着結合)、6. 散らばった(散在)・集まった(隣接・近接)・重なった(重層)、 7. 多い(密度)・少ない、8. 濃く染まる(濃染)・薄く染まる(染色性が低い),

質問・作業(重要)

上の表に記した「B.要素の配置:a-d」に基づき、細胞培養の初期(5分後)の細胞の状態(形)をそのれぞれの配置を想像し、簡単な絵にしてみましょう(上から見た図)。次に、要素のつながり(C.効果)から、同様に、培養30分後の細胞の状態を「構造図」としてイラスト画にしてくだい。 下図のFig.3をクリック拡大して観察評価してください。

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.1   中 Fig.2   右 Fig.3) 

先頭行へ移動

「細胞はゼラチン塗抹域にのみに接着伸展し単層の細胞シートを形成した」という表現も可能であるが、より丁寧には、「細胞は敷石を敷き詰めたように配列して隙間のない平面を作っている」という方がわかりやすいと思う。つまり、専門用語を無理に使用する必要はない。専門用語とは最小努力の最大効果のため一般的な人を無視して使う定義のわかる人の用語。

 なお、細胞培養中や標本観察の前には、細胞の運動性(形態変化:ライブ観察像・連続間欠撮影)を鑑賞・確認することも効果的です。その場合はすでに紹介した「ウェブ実験解説と原理」に付記した文字列「魚類細胞の顕微鏡像」を参照(クリック)。標本観察後は「動物生理・細胞生理の基本」の考え方を導入し、「細胞自身は何をしている?」という観点から、更に発展考察すれば教科書的な学習にもつながると考えています。また、補足的ですが、就学者の場合、文章日本語による様態表現(の練習)は大切な課題であることは言うまでにありません。

先頭行へ移動


<4. 実験A標本の観察概要:事例・状況

はじめに
 顕微鏡操作が正しく行われているか(例えば、油性ペンの目印のエッジはクリアーに見えているか)を確認後に、実験A標本を低倍率で観察し、その後、その特徴的な部位の高倍率観察。実験Bの標本は実験Aの理解に基づき改めて観察することが効果的かもしれません。なお、就学者(初学者)の場合、観察の視点が濃染された物・部位に集中する傾向があるので、「構造」の観点から観察実体を適切に検鏡すること(の意味意義とその経験値が成り立つような配慮)はとても大切と考えています。補足:次セット(W)の図4,5にその観察例(細胞像)を示す。

経 緯: 液止めサークルに細胞液を滴下すると表面張力により凸状の山盛り液になり、その結果、細胞濃度は中心域から放射状に薄くなります。そのままCG面に沈下しその場所で細胞は接着・伸展します。なお、滴下した細胞浮遊液は完全に均一な単離分散状態とは限りません。単離した細胞と集合した細胞塊(集合塊)も含まれています。また、有効期限の初期・後期では細胞濃度が異なることも考慮の対象です。実験中の様子を思い出しながら標本を観察してください。その様子を表現してください。必要に応じて模式図(構造図)としてください。
命 題: 細胞をシャーレにいれたらどうなるか・ 細胞を滴下培養したらどうなるか

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.16   中 Fig.17   右 Fig.18 )
先頭行へ移動

<Exp.A 培養5−10分の標本>

1. 低倍率観察の概要(構造の観点に基づく平素な表現)

 カバーガラスは見えないが、ガラス表面に付着した染まったものが見える。その様子は、a.中央は青紫色が濃く、その周囲・外側は徐々に薄くなっている。あるいは、b.濃く染まった(濃染された)球形の粒々が多いところと少ないところが見える。c.ところどころに色は薄いが押しつぶされたように平たく見える(扁平な・伸展状態の)円形あるいは不定形のものも見える。または、d.粒々が集まった(集合した・凝集した)ところとバラバラに散らばった(散在する)ところがあるような気がする。
 幾つかのあるいは数多くの粒々(細胞)が塊(集合塊・凝集塊)の場所は、その多くが粒々の球状であるが、バラバラに散らばっている(分散・散在している)ところでは、その形は平らなペッシャンコ(扁平な伸展状態)が多いように見える(傾向を示している)。

2. 低倍率観察の補足(構造の観点に基づく専門的な観点)

 やはり「構造」の観点である。その要素には基質・基盤(CG)も含まれるが、観察される多様な形状は共通して培養細胞であり、球状と扁平状の2区分である。その配置は密集・隣接する場合と散らばった(散在した)状態、そのつながり(の効果)から(を反映し)、細胞は異なった形態(形状)を示している。
 つまり、)培養した細胞は自らガラス面(基質)を認識し接着結合するという事実が確認される(足場依存性)。)短時間培養(5-10分程度)の細胞はCGに接着直後であるため「球状」で固定染色され観察される(と予想する)が、短時間培養であっても次の理由から扁平な伸展細胞も出現する。つまり、細胞の元気の良さ(細胞活性の良し悪し)、培養温度の違い、さらに上澄みの捨て具合(残留)により扁平な伸展細胞の出現数は異なってくる(対照実験の必要性)。)凝集や隣接度が高いところ(高密度)の場合は細胞-細胞間連絡のため(干渉するため)、その伸展速度は遅くなり球状の傾向を示す。)単離分散した低密度の状態(場所)は細胞-基質(CG)間の反応のみが優先するため3)に比較し素早く伸展運動を開始し扁平な伸展細胞が数多く現れる(見られる)、である。

3. 不測の事態

予想外のことは常にある。例えば目印などの他には何も見えないということもあり得るが、そこが肝腎要。例えば、MC/CGで実験Aを行った場合はそうなるであろう。しかし、実験とは「ともかく何かを確かめること・何が知りたい、確かめたい?」なので、その理由を考えるが実験の本意・ウェルカムであり、適切な対応と配慮が必要と考えます。

4. 高倍率観察の概要

 以上の経緯をもとに低倍率観察から特定した特徴的な部位(a.散在状態の細胞、b.集合状態の細胞、c.細胞どうしが上下に重なった状態)を再確認(高倍率観察)すると、)多様な様態もその要素は基本的には球状と伸展した細胞の2区分であり、)伸展細胞では核なども明瞭に観察できるが、球状細胞は濃染状態でありその識別はできない。)どちらの細胞でもその幾つかには細胞表面にトゲのようもの(糸状仮足)も見られるはずであり、この気づきに基づき、)構造レベルの観点(観察の基本)を思い出すと「細胞」下位の「細胞小器官」も見えるはず、に至る。なお、低倍観察は構造レベル(階層性区分)で「組織:細胞シート(上皮組織)」にあたるが、その考察には下記(実験A,Bの高倍率観察)も必要である。

 以上の見解を更に丁寧に確認するため、高倍率観察では「15-30分培養」の標本観察を進めるが得策である。

先頭行へ移動


Exp A. 培養15−30分の標本(高倍率観察)

  1. 基本情報: 30分程度培養した標本では、短時間標本に比べその多くが扁平状であり、伸展状態も更に薄い広がりを見せた細胞に変化している。伸展細胞の上に位置した細胞や細胞同士が密接に集まったところでは短時間培養と同様に濃染された球状細胞が観察されるが、個々の細胞の形態(構造)は高倍率のためかなり明瞭に観察されている
  2. 伸展細胞の形態: 接着班の形成状況を反映し多軸放射状(円形あるいは不定形)を示す。その固定染色後のFHLS細胞は、細胞質内に液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、その糸状仮足や葉状仮足、細胞接着部の様子(接着斑)などの構造(要素)が観察される(その他の小器官を識別することは通常の高倍率では困難である)。この場合の細胞骨格は接着班を基部として伸長したアクチン線維であり、仮足とは染色性が低い細胞の偏縁域であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展・伸長した細胞膜と細胞骨格により構成され、その動き(波うち運動)により細胞は移動を可能とする。丁寧に観察するとかなり広がった状態であることが確認できる。なお、接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期や接着基質(ガラス面)と接触がなかった細胞は球状のまま濃染され観察される(細胞運動の開始シグナルがないため動けない)、という観察に至るはず。なお、細胞膜に比較し核膜が濃染されることも特徴的である。また、ひとつの細胞体に複数の核が存在する場合もあるが、それらは細胞同士が融合した多核細胞であり、生体では横紋筋細胞(長軸伸長の多核巨細胞)の例などである。
  3. 密度の観点: 重層することなく適当な隣接密度の観察部位では、それぞれの伸展細胞の集合域は小さなコロニー状(細胞シート)を呈している(ことが分かるはず)。更に、そのそれぞれの仮足部分は重なることなく、細胞体は敷石を敷き詰めたような配列になることも特徴的である。なお、伸展細胞の上に重なった細胞は球状であり、伸展細胞の形で上下に重なっている状態(重層状態)を見ることはない。
  4. まとめ: 「細胞を滴下培養したらどうなるか?:命題」に対する見解。
     細胞は細胞周囲の培養条件(要素)を認識・反応し、自律的に接着・伸展し、30分程度の短時間の培養でも活発な細胞運動を示した。つまり、接着・伸展・移動・配列した。その特徴的な様態は、細胞集団が扁平上皮組織のような「単層の細胞シートの形成」を示したことである。その原理(仕組み)は、細胞の基本的性質「足場依存性と細胞シートの形成」に基づくと考えられる。実施したCG培養実験はすなわち「細胞の基本的性質」の実証実験であった。細胞シートの意味意義については実験Bの考察やウェブ「解説・原理」の参照に基づき展開が可能である。
  5. 補足1: 観察における「気づき」は考察の前提「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という平素な疑問に基づくものであり、その仕組みの考察には「動物生理・細胞生理の基本」の受容・伝達・実施であり、また、吸収・運搬・排出、という「2系6要素」で対応させることも可能であろう。
  6. 補足2: つまり、複雑なことでも平素な視点を大切に「考える基本」に従えば、進む道筋は大きく振れることなく詳細へ前進するという経験値を与える。それらは教科書や話し合い(協議)で補完されるであろう。つまり、「実体と概念の連立連携」の道筋(プロセス)と経験値を得るには生物学習が特に秀でている(かも)という事例である。
  7. 先頭行へ移動

<高倍率観察の要約>

 個々の細胞は、可視的な要素「接着斑」を起点に形成された細胞骨格とその効果「仮足の広がり」に従った形になる。仮足域で囲まれた染色性の高い内部(細胞質)には各種の「小器官」が配置する(確認できないものも多い)。高倍率「扁平伸展細胞」には何種類の要素が観察できるか? その様態を構造図(細胞構造)として描いてみよう。
 なお、お絵描き実験では細胞密度と接着基質と細胞の基本的性質により特徴的な敷石を敷き詰めたような切れ目のない細胞シートが形成される。ゼラチン域辺縁(エッジ)に位置した細胞体はその境界線に沿った形に変化する(を示す)。ウェブ資料を参照。

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.37   中 Fig.38   右 Fig.39 )
先頭行へ移動

上図:カバーガラス培養法による染色細胞像(クリスタルバイオレット染色)
 本編の方法で作製した約30分培養後の魚類培養細胞FHLS像。
この標本は細胞濃度(密度)が低いため、それぞれの細胞が散在し、程よく配置している。ほとんどの細胞は平たく扁平に伸展して内部構造も明瞭に示されているが、球状の細胞は染色液で濃染された内部構造の観察は無理である。しかし、伸展開始したところなので、葉状仮足の広がりは観察される。
 伸展細胞には、細胞質内の液胞も散見されるが、細胞核、核小体、細胞骨格(アクチン束)、糸状仮足や葉状仮足など、細胞接着の様子や基本的な細胞形態が明瞭に観察される。仮足とは、染色性が低い細胞の偏縁部であり、主要な細胞小器官は観察されず、薄く伸展した細胞膜と細胞骨格により構成され、その波うち運動により移動を可能とする部分。接着伸展が未熟な細胞、つまり培養初期など、では細胞は球状のまま濃染され観察される。

コメント:実体あるものには構造がある、構造とは「要素の配置と繋がり」であり、要素間の繋がりは役割や機能の起点や始まりとなる。観察像は従って専門用語より平素な表現による「構造」の日本語表現法が重要である。生徒さんは「これ何?」と聞いてくるが、専門用語で回答すると納得してしまうので「この部分は何を担当している所と思う?」などにより話し合いが棚上げすることなく継続するような配慮が必要である。細胞実験の「原理と解説」も参照。

先頭行へ移動


<実験B(OEKAKI)標本の観察概要:指針

経 緯: メチルセルロース(MC)処理済みのカバーガラス(CG)にゼラチンで任意の絵文字を描き、細胞液を滴下し60分以上の培養を行った。その標本観察は、既述の実験A「観察概要・指針」、また個別の考察を前提とするが、実際に想定される観察状況は下記であろう。
 その目的は、細胞の基本的な性質「足場依存性と細胞シートの形成」の再確認であり、動物体の成り立ち(構造性と階層性)を細胞レベルから確認すること。それらに基づく「生体組織と培養細胞との類似性」の考察への糸口をつかむことである。つまり、実体観察に基づく「なに・なぜ・どうして・どのようにして」という平素な疑問を大切にすることが高度な考察レベルへの近道・筋道であることを確認するためである。
 なお、ウェブ資料「実験解説と原理」に掲載したバーチャル顕微鏡像(#2標本)を用い、その観察状態の共有と再確認は実験学習の場において有効と考えます。

  1. 肉眼や低倍率で観察するとともかく染色された任意の絵文字が見えるはず。その理由(仕組み)は、工程1で用いた材料の意味意義であり、ゼラチン(コラーゲン)は細胞の接着基質であり、メチルセルロース(MC:血清アルブミンの代用品)は細胞の接着阻害を示す物質であるため。更に、細胞はその基本的性質に従い自律的な運動・活動を行ったためである。
  2. なお、予想通りに明瞭な絵文字が現れない理由は、培養時間が短い、細胞活性が低い、細胞濃度がすくない、ゼラチンの乾燥不十分や厚塗り、が考えられる。細胞シート上の球状細胞がかなり多い場合は、再浮遊時の分散処理(Step2の5)が不十分、あるいは固定前の紙ナプキン上で物理的なショック(Step4の1を参照)が不十分な場合が考えられる。補足:この経緯から固定前に細胞面にリン酸緩衝食塩水(PBS-:Caフリー)を滴下・洗浄により弱い接着の球状細胞を除くことも有効である。
  3. 高倍率で絵文字の境界を観察すると、細胞はゼラチン塗抹(基質)域にのみ接着伸展し扁平細胞として確認される。本実験では高濃度(底面重点密度)の細胞液を用いたため、細胞は緻密な隣接配置であり、隙間なく敷石を敷き詰めたように配置・配列している。つまり、細胞シートを形成している。仮足は緻密な配列状態のためほとんど確認できない。単層の細胞シートの上には球状細胞も観察される。
  4. メチルセルロース処理域には伸展細胞はほとんどない。その基質に沈下した細胞は固定染色の工程のときに洗い流されたと考えられる。しかし、接着したまま伸展できない球状細胞もところどころに散見される。
  5. 補足1: この標本観察を行うと、どんな仕組みで「形」が現れたのか、細胞はどのような性質を持っているのか、といった疑問が生じるが、「染色液で染まったものは何?」という平素な疑問も大切である。次セット(W)の図4.6を参照。この考察を正しく行うには対照実験を正しく計画し実施する必要があるが、短絡的には細胞がその答えである。しかし、生体由来物質のゼラチンは染色されないの?という平素な疑問や質問も大切である。その解答「薄膜として塗抹されたゼラチンはほとんど染まらない」であるが、板ゼラチンを水で膨化させた後にCVを滴下すれば確かに染色されることも事実である。
  6. 補足2: 実験B(お絵描き実験)の主要な目的は「生体組織との類似性の考察」にあるが、これに対する解説はすでに「サイト:実験学習「細胞培養実験」の受講者へ:解説と原理」に記載したのでここでは省略する。
先頭行へ移動

2 2 2
  (画像クリックで拡大表示: 左 Fig.4   中 Fig.5   右 Fig.6 )
先頭行へ移動

2  2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.7   中 Fig.8   右 Fig.9 )
先頭行へ移動

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.10   中 Fig.11   右 Fig.12)
先頭行へ移動

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.13   中 Fig.14   右 Fig.15 )
先頭行へ移動


<16-18>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.16   中 Fig.17   右 Fig.18 )
先頭行へ移動

<19-21>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.19   中 Fig.20   右 Fig.21
先頭行へ移動

<22-24>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.22   中 Fig.23   右 Fig.24 )
先頭行へ移動

<25-27>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.25   中 Fig.26   右 Fig.27)
先頭行へ移動

<28-30>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.28   中 Fig.29   右 Fig.30 )
先頭行へ移動

<31-33>

  2 2 2 
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.31   中 Fig.32   右 Fig.33 )
先頭行へ移動

<34-36>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.34   中 Fig.35   右 Fig.36 )
先頭行へ移動

<37-39>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.37   中 Fig.38   右 Fig.39 )
先頭行へ移動

<40-42>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.40   中 Fig.41   右 Fig.42 ) 
先頭行へ移動

<43-45>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.43   中 Fig.44   右 Fig.45 ) 
先頭行へ移動

<46-48>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.46   中 Fig.47   右 Fig.48) 
先頭行へ移動

<49-51>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.49   中 Fig.50   右 Fig.51) 
先頭行へ移動

<52-54>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.52   中 Fig.53   右 Fig.54) 
先頭行へ移動

<55-57>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.55   中 Fig.56   右 Fig.57) 
先頭行へ移動

<58-60>

2 2 2
画像クリックで拡大表示: 左 Fig.58   中 Fig.59   右 Fig.60) 
先頭行へ移動

<***>

 

.